秀 句 鑑 賞 |
初日は京の東山に映え望め冷え込むも穏やかな元旦だったが、六日早暁に軽震が京都市中を揺すり、一瞬十三年前の阪神淡路の震災時のことが、心中を寄切って未だ暗い夜闇を暫く見凝めた。その後列島は暦のとおり寒に入り、株価も急落し先行き寒い一月だ。そんな中冬たんぽぽが咲くを目に、地球温暖化と寒気との差異に複雑な体感を覚える。今日市中に雪が舞う美しいが震える日だ。 |
埠頭晴れ |
あの日の大和夢想する |
奥 山 呼 潮 |
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句柄印象が大柄でいて叙す言葉の運びに抒情味がある。句意は一読明瞭であり句の内容に踏み込まなくていいが、作者の住地は瀬戸内で日本のエーゲ海と謂われる港。その瀬戸を戦艦大和は航行し沖縄戦に往った景との、明暗対比が筆致よく述べてある。少し筆が滑るが縁者が海軍で生還した。だから靖国に誰も縁は無い。
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駅の道 |
定年以後がよそよそし |
松 浦 外 郎 |
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定年の句材はよく見るがこの作は、自身が馴れ親しんだその駅への道が、今は「よそよそし」く感じ見る「定年以後」の生活感嘆で、かつての会釈すら交わさ無くなった淋しさを籠めている。無造作のようでいて人間かんの微妙な気配描写は、実は凡ではない。
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駅の道 |
あの日も咲けり冬の花 |
浅 田 邦 生 |
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対照的に抒情性の濃い回想が「冬の花」の季節感で象徴され、その色彩の鮮やかな印象を「あの日も咲けり」と語って、詩因の端緒を作者の眼前の出来ごとに再現させて、風光美しく詠んだ。
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埠頭晴れ |
銀一色の電車来る |
古 川 峰 山 |
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港駅にリニューアルした「銀一色の電車」だろう。大阪や神戸の路線(多くは地下鉄)を思う。展開着眼がユニークで今日感覚が働き、生活感情に測した欣びを「来る」の軽みで効いている。 |
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埠頭晴れ |
想い出はもうトレモロに |
野 口 正 子 |
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音楽用語(伊語)を配して空想の雰囲気を高めようとした句。一種の心理的幻想で作者自身を投影させていよう。句境のモチーフに具体性が乏しいが、調べのo・u韻が正しく通り救われた。
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埠頭晴れ |
ガム噛み少年卒業す |
中 村 秀 男 |
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冠句のモンタージュと照応配合性を、作者が意図してのものでないかも知れないが、句興の「ガム・少年・卒業」に「埠頭」の景を前にした、情景描写が今どきの人物に血を通わせて窺える。句材は類型もあるが心紅潮させている、少年の像が刻明出来た。
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埠頭晴れ |
きょう出す手紙握り締め |
加 藤 直 子 |
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温暖な入江を包み込む風光美しい町だろう。その晴れの日「きょう出す手紙」に、柔らかで芯の強く感じやすい性質の心情が、言外に語られ「握り締め」た姿に、作者の投影をも見るようだ。
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駅の道 |
哀歓みつめている大樹 |
夏 原 美津江 |
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街路樹でも一際目立つ常緑の「大樹」が、四季を通して道を往来する人間社会の表情を見ている描写で、移り変わる世情の人さまざまの「哀歓」を、作者にもあろう仔細を籠めて語っている。
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埠頭晴れ |
パープルサンガキックオフ |
八 木 勲 |
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カタカナ名詞で付句を締め括った異風の句。サッカーの京都チーム名を畳み込んで、試合開始と映発させて愉快。ファンなのか。
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