秀 句 鑑 賞 |
爽涼の"秋を渇望"する長い残暑が続く。暦の上では"白露"も過ぎ、中秋名月への上弦の繊い月がビル街の上に昇るが、蒸し暑さに待ち望む気分も薄い。町中から燕が暑熱を避けてか早く去って久しい感に、法師蝉がまことに小さくつくつくと、心細げに啼くのを耳にし、夏が逝くのも近いとあらためて思い直した。 |
ビル通り |
空の高さに救われる |
住 澤 和 美 |
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環境悪化が懸念される中、高層建築は経済動向を反映して増加する現代社会。景観が狭ばまれ暑苦しく仰ぐと、天空の輝きだけは未だまだ遠く覗めた。その「空の高さ」に作者は無限の秋を感じ「救われる」思いで、歓嘆したのであって都市空間のありようを見凝めて、誰もが受ける心落ち着く景を簡潔に詠み収めた。
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音も無し |
眠りつづける湖の琴 |
川 口 未 知 |
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句立ての仕様が古い由緒の歴史物語りをイメージしての作で、しかも「湖の琴」の悲しい言伝えを暗示して、詠まれていない情景まで「眠りつづける」描写で出した処が、如何にも作者特有の持ち味で「音も無し」の、無韻の感じをよく引き出している。
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ビル通り |
山ゆったりと京覗く |
高 岡 ひろみ |
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東山三十六峰の景容を現代風景で描き直している句。あくまで京都だけの「ビル通り」との対照描写だが、作者の住まう町からの眺めが素直に謂われており、その叙述効果が京都弁に通じる。
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音も無し |
今日より秋という便箋 |
篠 原 和 子 |
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秋が来るのは目に定かでない無いことは、古歌にも謂われている処を「便箋」に、視点を据えた感性が現代の新感覚として出ている。所謂"今朝秋"の感慨で手紙を綴る際の心情も分かる句。
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ビル通り |
潮の匂いすセールスマン |
澤 村 福 男 |
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休暇明けのオフィス街の勤め人の一点描。モチーフは殊更なもので無いが「潮の匂いす」に、都心の騒々しい会社人間の動きの中で、鮮しい生命的リフレッシュな歓を感じた、愉しい嗅覚。余談だが先師の句「セールスマンは海と来る」を想起させられた。
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音も無し |
幽霊ばなしに長居して |
鞍 谷 弥 生 |
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これはユニークな句材の語りようで、夏の夜咄しとしても面白い。落語の圓生などの話芸に惹きこまれる様子をも連想する。句の陰翳もくっきりとしていて「長居」に、物怖い面白さも出た。
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