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優秀冠句


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2007年8月






秀  句  鑑  賞
 久佐太郎師の旧知で菊池寛や芥川龍之介と『新思潮』同人として、東大在学中から関わった作家で、先師と同年に久米正雄があり、その久米との性分の似通いを中來田健一(淡路住)が、正月に先師から蜜柑を戴き皮をもぐのも惜しい思いの中「先生主宰の芸能文化連盟が、十二月十四日の赤穂の義士祭には、有名芸術家を以って組織した一団を持って行こうという計画があり(略)私など張り切っていたのであったが、何かでこの計画がお流れになって、とてもがっかりして年を越して迎えた正月であった。その時の先生は然し、とても上機嫌で皆を笑わせておられた。それがグンと私の胸に来た。それまで屡々お目にかかっていた久佐先生ではあったが、初めてその温かい心の奥に触れたように思った」と述べて「先生は誠実を決して人に押しつけない。表面にそれを現すのがイヤ味に感じておられるのだ。それとなき自然の表情(略)先生は洗練された純粋な都会人であると思った。不調になった赤穂行きにこだわらず、責任を咎めず、却って皆の気を引立てる細かな心づかいが、いとおしく私の胸をしめつけるのだ(後略)」と書いた寄稿文に、先師は『ハッとした、確に私にはそうした面がある。誠実をそのまゝに正直に表に云い現し得ない……然しそれを美徳に見るのは買被りで、実は非常な弱気、恥しがりやなのである。久米正雄氏がそうであった。多分同じ星のせいもあろうが……』と、自ら「吾楽荘机語」の中で語ってある。
  前号で先師のラジオ冠壇、実況放送の一齣を載せたが、その話ぶりは側に居る者に語りかける声で、マイクを感じないトーンでの選句評が洗練されてい、作者名を読まれると真実心弾んで、自分を覚えて貰った気分に浸れた。当時アナウンサーが選者の紹介で、久佐・太郎さんと呼び名を区切っていて、他の選者氏名のように、苗字と名前に分けると思った位。勿論久佐太郎の筆名は区切らないが、先師は文章では(久佐)と署名されていた。遠い記憶が抽斗の奥から覗く感慨に『文芸塔』の名付け親が、草壁春秋(北海道)という人が居たことを抽斗を開いて再認識した。
血が騒ぐ この一冊と出会いあり 篠原 和子 ▲戻る
 

 先師久佐太郎は冠句最古本「夏木立」の原典で、冠句の始祖を歴史的資料に探り、大系明らかにされたが昭和四(一九二九)年、東京の素人社から『現代冠句大観』の出版もされ、私はそれを図書館で見た覚えが甦る。それは別にして先師は晩年も「夏木立」を座右に置かれた。この作の「一冊と出会い」の重く深い感銘に考えさせられ“一隅を照らす是れ国宝”の語を思う。余談に過ぎたが、作句も人の心と記憶に永く残ることを願望としたい句。

風が佳し 星に許している裸身 川瀬 正子 ▲戻る
 

 シチェエーション(状況)が浪漫で、ナルシズムな陶酔感の境地だ。木星と金星が同方角の珍しいときが思われ、その輝き美しい夕に女の本性そのままに、生活の繁雑や俗臭を脱ぎ去って一沫清純な気に触れたあやな想いがある。理屈でない姿を語っていて、淡いエロスが漂い句の感性に新しみはないが愛情が匂う。

風が佳し 風が佳し黙祷一分灯の揺れる 稲葉恵美子 ▲戻る
 

 追悼の情景だが過去の悲惨でも、人間的あたたかさの献心への鎮魂を感じさせる。それは「灯の揺れ」が「風が佳し」に移り映える形が、職務に殉じて人の身を救助する尊さの象徴にも見るからだ。又「一分」の刻のきざみに、身を引き締める念いがある。

血が騒ぐ 櫂を握れば忘る歳 栃尾 恵羊 ▲戻る
 

 回春壮夫の気をなお失わないで、昔の力漕を呼び戻している甦りの印象だ。それは「櫂を握れば」感覚が集中して心身に一点、ちからが漲ってくる悦びである。赤裸な思いに歳は無いのだ。句調の畳みかけの所謂テニオハが快調で、仲間との交歓景を見る。

風が佳し わが晩年の重からず 三村 昌也 ▲戻る
 

 境涯性を自問自答しての「晩年重からず」と感じたのだろう。あくまで澄んだ大空の広さと、心地よい風の行方から湧き出た感歎でそこに躬を置き吹かれている感じが、逆説的に力強く向かい立っている、作者の眼の据えどころを発見する庶民旦暮の句。

風が佳し 魂だけを泳がせる 大橋 広洋 ▲戻る
 

 無心でいて少し孤独な時間の流れを、意識した心象抒情と云えよう。風に「魂だけを」何処へともなく、自在なままに遊ばせたい、ある意味贅沢なこころには、その底に「千の風」の歌の曲のもつ、淋しさの中の透明なあこがれが作者にあるかも知れない。

風が佳し ふたりを祝す青柳 鈴木 康子 ▲戻る
 

 柳の青さが微風に揺れる日の、結婚式場から眺め見える河岸の光景か。新しい人生へ歩み出す「ふたりを祝す」に、まこと美しい輝きようを活写されていて、その場に満つ翠風感を望むよう。

血が騒ぐ 昭和経し貌つきあわせ 鞍谷 弥生 ▲戻る
 

 昭和も遠くなったが団塊の世代が、定年人生の転換に入る今日に、時代相を「必然」に負う故の人々の性格が切り取れている。

風が佳し 背なに馴染みしランドセル 加納 金子 ▲戻る
 

 健全で微笑ましい学童の成長を、まこと簡潔に「ランドセル」の用具に示している。作者の眼の働きの明るく素直な情景描写。

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