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優秀冠句


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2007年7月






秀  句  鑑  賞
 創刊八十周年に達した本誌発行には、 文字通り数多くの一門の人々の筆に尽くせぬ、 陽に陰に注がれた力に与っているに考えが至る。 とりわけ発行に欠かせぬ本誌の編集に携わった、 各時代の担当の方々の労心を、 私も先師没後の一時期を僚友と編集をして来た経験から、 深い感慨と共にその任にあった人へ謝辞をしたい思いである。 そして特に 「用紙」 が、 少なく規制されていた困窮時代にも刊行した苦労は、 今日の豊かさからは想像を超えるものであり、 本誌発行と発送封筒の手書き等、 隠れた助力も忘れてはならない。 各々の名は控えるがまことに支えられてのお蔭だ。
  先師は晩年、 病いがちだったがその症状治療に当たられ、 いわば主治医の人に中野稽雪 (同人で医博) が居られた。 先師は京大入院まで全幅の信で体をあずけられていた。 先師にはよき心服と支えた同人の、 いま顧みて勁切な結びつきが共に在ったと憶う。
  八十周年目に今私が先師に礼辞を捧げる縁を感銘しながら、 誌歴の各時代に関わった全支部長塔員各位に深く謝意を表したい。
曲流る 風を青めるブナの森 野口 正子 ▲戻る
 

 ブナ林は植物共生の環境指標になり、 自然保全上貴重な景域で植生し、 国定公園や世界遺産の指定がある。 京丹後の内山にあり心地よくそよぐ山地帯の、 貴重な森に 「風を青める」 清爽で鮮美な響きを享けた感歎がある。 簡勁な気韻で作者の心模様が出た。

塗りの箸 能登は荒磯(ありそ)と震災と 上田 國寛 ▲戻る
 

 能登半島の震度六強があったのは三月二十五日、 当日桜月忌大会を修していた。 輪島漆器の名産地で朝市でも知れた地域の被災に、 作者は悼む言葉を畳み込むような形容で、 自然風土観の沁みた心情で「……と震災と」献身的に見舞った。 その絶対が正に命。

曲流る 充ちくるものありこの老体 松浦 外郎 ▲戻る
 

 クラシックでは今年モーツァルト・イヤー。 加齢するとバッハと共に身心に添うという。 作者は 「曲流る」 に喚起されしみじみする感を、 響き高まる思いと 「俤」 の関係で、 デリケートな面を老体に結んでいる。 そこには暗に青年時に心に影響うけた情景が脳裡にあろう。 音=曲の交錯に惹き入れられている姿が切ない。

塗りの箸 年輪に生き様がある 篠原 和子 ▲戻る
 

 生活感情の上を作者独特の捉え方と見付けどこから、 日常感触を省いて使い馴染んだ箸に 「生き様」 と、 読み手に何か異様な関心を覚えさせるかに、 切り出した作でそこが作者の哀歓なのだ。 従ってこの塗りは、 前出の輪島物などで無い極平準な品だろう。

曲流る 国歌も賛否巣立ちの日 藤原 冨治 ▲戻る
 

 句意は説明するまでもない卒業式への批評眼で、 現況の二つの信条を見つめている。 賛否いずれにも戦時体験者には様々違う印象が残っており 「巣立ちの日」 に複雑な感情にとらわれたのだ。

曲流る 調べゆらゆら酔い候 田中さぎ里 ▲戻る
 

 国語の古文的な語感に対する作者の関心を識る表現で、 演能の一曲を味わっている雰囲気が漂ってくる。 審美眼としては未完な点も思うが、 陶然とする感を 「ゆらゆら酔い候」 と、 密度のある詠みぶりに曲調のこまかな音色を、 言取ろうとする潔さを知る。

塗りの箸 月日はじまる新婚よ 鞍谷 弥生 ▲戻る
 

 若々しい息吹きと浪漫で瑞々しい印象への、 回想的な憧れが語韻のi・a・n音のつながり響き合う中に、 派手やかで美しい箸の艶と新婚の日々の、 命の輝きを信じるものをこの句に受ける。

曲流る 一管の笛しじま裂き 酒井 孝子 ▲戻る
 

 仕舞いの高潮玄妙の情景を思わせる 「しじま裂き」 を感じる。 「一管の笛」 が少し付きすぎだが、 心理の気品が全体に流れた。

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