冠句研究誌『文芸塔』創刊八十周年になる「正風冠句」は、六十三年前の昭和十八年に、冠句始祖冠翁墓碑域に『冠翁提唱正風冠句二百五十年記念』と刻した標石が建立され、五月十六日、京都市文化課、朝日新聞京都支局の後援を得、上徳寺にて朝来より福井・名古屋と近府県から来会者多数が、久佐太郎師を中心に墓前祭を営み、大会句会では穎原退蔵博士の記念講演が行われ、大成果を納めている。その年は各地支部所在地でも記念冠句大会行事が挙行され、大阪では市文化課、大阪新聞社、読売大阪支局の後援で、近松門左衛門に由縁深い網島の大長寺で開かれている。
名古屋大会は七月十八日、市文化連盟、中部日本新聞社の後援で、蝉しぐれの長円寺にて開催。他に札幌記念大会が八月十五日北海道新聞社と市芸能連盟の後援で、グラントホテルにてあり、九州八代支部は市文化協会の後援で、九月二十四日代陽国民学校講堂で盛況裡に。十月三日は姫路支部が神戸新聞支局の後援で開かれ、十月十七日、神戸大会が湊川神社七生館で催され、ここでは本社膝元だけに特別冠句展を行い、久佐太郎師愛蔵文献の出陳もあり、その他各地よりの出品数が一千点に達し展示された。
その掉尾は東京大会を十一月十四日、駿河台日本生活協会の大講堂で開催し成果を収めてい、奇しくも同日夜神田共立講堂では芭蕉の二百五十年記念の集いが、同じ日に催され由縁も深い。なお、京都支部の満十五周年大会が、昭和十七年度冠翁忌に墓前奉告祭が行われており、併せてその活動の多彩が記録に残る。
前出の先師愛蔵文献の出陳の件は、冠句始祖の堀内雲皷の事蹟が判った古文献で最古本『夏木立』が、出ていたことが識れて先師が正風冠句の「目指す蕉風的な連句の十七音字化(この新形式の提唱はかの長形式による連句を専らとしていた当時の俳壇にとっては、正しく大きな革新運動であったに違いない。)…向って勇敢に私達は作句を進めて行った」と、書かれる典拠がわかる話だ。
それが「雲皷の革新精神への飽くなき追究であり、復興であった。」として先師自らの作品を例に掲げ
ソーダ水 ガーベラの紅さと揺れる雲
ソーダ水 薄暮がながい熱帯魚
向日葵(連作)
太陽が 空に浴みし 夏となる
太陽が 海に濯ぎて 夏となる
太陽が 魂を浄めて 夏となる
新生へ ものみな灼きつ 目くるめく
それからまた、(大砂辰一作品に触れこれからの期待をされた)
遠雷す 直線・円・円・花の角度
ソーダ水 植物へ海が歩いて来る
「ここにはアブストラクトとかシュールとか、いわゆる近代芸術精神の課題にも触れて来るのだが」と記し「それは極めて精密に計算されたリアリズム(デッサンの確かさ)に発想した作品であるということである。」と評され「語彙の豊かさのもう一つ奥を索ぐれば、ロダン的なマチス的なかっちりしたデッサンを把握し得ること」で「これは我等作句の上でも学ぶべきことがらであろう。」と結んで、何れ若い人達でなされる冠句への待望をいわれた。 |