文芸塔トップへ
文芸塔社とは?ページへ 行事予定ページへ 優秀冠句ページへ 投句ページへ イベント報告ページへ 冠句のお誘いページへ バックナンバーページへ 問合せ先ページへ

TOP > バックナンバー > 2006年9月


優秀冠句

バックナンバー
2006年9月






秀  句  鑑  賞
螺旋階 花の余韻がつきまとう 藤 原 萬 郷  ▲戻る
   自然の微妙な息づかいを捉えて、 小高い展望台などの上からの印象風景に、 殺風景であるべき“螺旋階段”を上がりきっての、 いわば疲れとの因果関係と離れた、 花のにおいを感じた作者の驚きのような光景印象が、 花の余韻という主観的な詠嘆で納められている。 大づかみな中にも時間的な内容や心理の面を、 美しい抒情をひいて螺旋階からの眺めにつくづく立戻った座五が効いている。 花は柿や椎・泰山木の花など今しがた通って来たであろう、 花樹を余花の風情をも含めて、 見渡せまさに満喫したのだ。
涼味欲す 地下街の滝三度訪う 大 橋 広 洋  ▲戻る
   都市の再開発で地下街が拡がり、 その地上は高層ビル化して潤いが消えた反面、 地下道に人工の流れを設けこの句のように、 滝の景を造って暫しの自然を擬して、 憩いの場景としている地下街が多くなった。 水は最も欠かせぬ自然の恵みであり、 そのすがたかたちに触れることに、 古代都市でも水の流れとの関わりを作って、 人と自然の活きる場の中心として来た。 現代社会もそれは渝らず、 人工滝に三度も訪れ僅かなときを向かい合って、 作者は神経と呼吸(いき)合いを涼ませたのである。 本当は偶々行く所で一瞬の涼味を得る三度の行為は、 謂れある語意の可笑しみを出している。
螺旋階 夜間飛行を抱きしめる 川 口 未 知 ▲戻る
   こころの風景を冠句性独特な響きと映発手法で、 楽しく華やかな中に、 夜間飛行して旋回する歓びと精神の高揚を、 実感の思いを籠めてあたかも作者自身の快い感覚で、 はっきり目に見える機影が点ずる灯りを愛しむかに映じ出し、 その行方の安穏を祈っている姿である。 時が経つとしみじみ深まってゆく夜の広がりだけがあり、 しかも空の向こうの未だ見ない未知の地の期待感を、 語間のうちに眷恋する者の祝意のように、 写し撮ってもいる。
螺旋階 灯台いまも原風景 滝 沢 茂 樹  ▲戻る
   岬の灯台は螺旋階段を持つ代表と云っていい。 涛洗う岩礁を眼下に眺めた大景が忘れられないのだろう。 原風景に季節感が描きこめると更に出色して、 景観に確かな美しさが浮かび出よう。
螺旋階 安らう星を掴みたく 渡 辺 君 子  ▲戻る
   星逢いの夜を思わす抒情性と憧憬を語っている素直さがいい。 柔らかな感受性であり星のきらめきが、 この句の生命と云える。 「安らう星」 は大まかな表現だが、 軽やかでいかにも快的だ。
涼味欲す 寒天の稜白ければ 三 村 昌 也  ▲戻る
   食べ物に涼味を覚えることを言っただけだが、 表現手法はまことに鋭い目の付け処と手腕が光る。 稜は寒天の立方体のカドそのものでありながら、 その白さに食味そそられる愉悦の目線がある。
涼味欲す 稜線ゆらぐこともあり 浅 田 邦 生  ▲戻る
   山岳鞍部を縦走した体験を踏まえての、 大景観と対した迫真の感銘が語られている。 三千メートル級の巍々と立つ連峰の神秘と厳然とした偉容を、 足下にして佇立した言葉に尽くせぬ達成感とその大自然の勇壮さに、 親愛極まりない感得をしたのであろう。 山は人に対して強い気韻を響かせる。 それを捉えた感動は本物だ。
螺旋階 逢いたき人に逢う夜星 鈴 木 康 子  ▲戻る
   構築物の固い句材に、 目にも優しく明るい抒情の恋心を詠んでいる。 星は七夕星でもあろうか、 届かぬ思いでありながら手に触れるように間近かに覚えての、 女の主情のはたらきに星逢いへの憧れと、 微妙な感情の距離を語っていて作者の感受性が伝わる。
 本社準客員、 筑紫磐井先生 (東京) が角川書店発売に依る 「詩の起源」 の表題で、 詩歌の発生とは何か?と言うテーマで、 現代の古典ともいうべき藤井貞和の古日本文学発生論を精緻に読み解き、 詩の起元論の行方を定型詩学から展望。 三百十一ページに及ぶ立派な研究書を発行された。
  内容としては第一部 「発生論の吟味」、 第二部 「発生論の批判」 第三部 「起源論の解明」 のほか参考として定型詩学入門と題して、 冠句についての記述も有る貴重な書である。


HOMEへ戻るボタン



Copyright:c2005-2008 bungeito-sya All rights reserved.