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優秀冠句

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2006年3月






秀  句  鑑  賞
時計鳴る いのちいとしみ真夜を抱く 京 都 川口 未知  ▲戻る
    「評」 人はみなこの世に誕まれた時から 「死」 と向き合って生きている。 その喜怒哀楽をつむぐのが〈愛〉なのだ。 眠れぬ夜に寄せて抱く作者の詩心は、 みずみずしい抒情詩となって、 永遠に褪せることなき華を咲かせ続ける絶唱の句。  
嬉しい日 膨らみ増した雲の峰 神 戸 古川 峰山  ▲戻る
    「評」 入学、 就職、 結婚などを暗示する冠題に対し、 その主題を省略し、 喜びの気持ちを早春の雲の明るさに象徴した点が巧み。 中七の措辞に見るべきものが有り、 老練にして新鮮な香気を放っている。 その前途に対して惜しみなき拍手を贈りたい。
時計鳴る もはや決断下ろさねば 向 日 石田 貴美  ▲戻る
    「評」 小説的な設定のなかに迫る時間の推移を前提として、 重い決意をひと息に吐露した詩句に見るべきものがある。 作者は以前 「雪あかり 嘘のつけない眼と思う」 と、 「霧の中 四囲から迫る女の齢」 で久佐太郎賞を二回受賞された。 この句の切迫した情景描写もまさに、 作者独自の詩境と言えよう。  
時計鳴る 滅びの美学欲しいまま 京 都 桑原 幸江 ▲戻る
    「評」 句主は茶道の師範として貞淑で上品な女性だが、 小説やドラマに誘われる心理の奥に秘められた激しい感情に、 熱い血を持て余されたのであろう。 中七の詩句に打ち寄せる座五の詠嘆は、 さながら夜の怒涛が岩を噛むごとき印象をあたえる。
嬉しい日 積み木ふたたび積み上げて 長 浜 伊藤 茂治 ▲戻る
    「評」 わが子に寄せる愛情と期待感を 「積木」 に象徴した句だが、 広く夢や希望とも解せられて、 作者の誠実な人柄がしのばれる。 冠題の説明に終わらず親としての愛情を描く、 これが正風冠句の作法である。 その円熟した詩境を賛えたい。
時計鳴る 鎮魂の灯に寄せる波 京 都 中村 元枝 ▲戻る
    「評」 阪神、 淡路大震災の日に寄せて故人を偲ぶ人達が水に浮かべる祈りの火。 またルミナリエの灯につどう人波に、 私達は平和の大切さを改めて思う。 作者も祈りの灯に寄せて命の大切さを知り、 生きることの大切さを痛感したのである。
嬉しい日 コーヒー熱きたなごころ 備 前 葛原 博文  ▲戻る
   「評」 以前、 流行歌で 「一杯のコーヒーから」 と言う青春性ゆたかな名曲があった。 嬉しい日に寄せてしみじみ味わう熱いコーヒーで、 手の平を 「たなごころ」 と吟じた表現が良く、 今日の歓びを追想する気持ちには"いささか"の濁りも無い。
時計鳴る これが別れか終の駅 奥村絃二郎  ▲戻る
    前月号で奥村絃二郎氏のご逝去を報じて、 そのご追福を祈ったが、 氏は三月号にもご投句下さっていた。 投句締切りが十二月末日でご逝去が十二月十二日だから、 ご生前の最後まで作句活動をして下さっていた事になる。 この句はまるで永別の心情を余すことなく伝えて、 私達に最後のおわかれを告げられたかのように思われる。 冠句人として私達もあやかりたい。

合 掌


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