冠句の興りは、俳諧門流が乱れた風潮に傾くのを、句立新しい型で正しい趣へ導く志向で行われたと云っていい。
従って、句風句境を新し味へ導く志へ、二句映発の句の世界が拓かれたのである。詩句の世界は何時の時代も、新しい精神を持つ詠み手によって、
より高みと輝きを生み出してゆく。話を障壁画にとると、狩野派の色彩に対し、風景に精神美を描いた、長谷川等伯の『松林図』がそれだ。
国宝でも傑出した水墨画で、七尾の原郷に吹き渡る、見る人の魂を呼び覚ます空気の流出が、画面から伝わってくる。今一つ、光琳の『紅梅図』で琳派の代表画、
光が揺れる。これはMOA美術館が蔵し、熱海の海景を前に香を放つ。
水詠う | 光琳屏風胸薫る | 明 美 |
東風の道 | 幸福といふ特急車 | 久佐太郎 |
昭和二十八年三月、久佐太郎は横山大観を熱海の居宅に訪れている。その跡が伊豆山にいまも遺っている。熱海の海上から遠く富士が眺められると、
北斎の画を想起する。かつて大島からの船で、熱海港に入った光景が胸に甦る。師は、三十年ぶりの大観との再会歓談であったという。
新生記 | ふるさとを立つけさの春 | 久佐太郎 |
新生記 | きみ迎へ待つ里の春 | |
ペンを走らせている今は十一月、曇・晴・雨入り混じりで、好秋とは言い難い日々紅葉も鮮やかさ及ばない晩秋。
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