文芸塔

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優秀冠句




塔  映  山  声
松 尾 明 美

 雪多い今冬滋賀・岐阜境いに屹立の伊吹山が、奈良二月堂修二会が終わる頃も、 山容が真に白く遠見され例年よりも、積雪高い象徴光景として、目にまざまざと実感した。関西の山でも雄偉な山容で、 気候変化にも豊み印象強く、芭蕉作 折々に伊吹をみては冬ごもり が心に泛かぶ。京滋と大和は、お水取り後漸く春への暖かさが綻び出す。 辛夷・白木蓮・雪柳、そして馬酔木の花の白さが美しい。

 無聊の日 足にそぐわぬ白い足袋 呼 潮
 白 手 袋土器にかすかな火の匂い 辰 一
 齢 ふ と塩の白さの中に冬 明 美
土 の 肌  軽く遊ばす春の靴 渡 邉 君 子 ▲戻る
 

 水と土は、生物を育む源で倶にぬくみ持つ頃に、卸し立ての色艶明るい「春の靴」を、心弾みつ「軽く遊ばす」女の、 童心的な仕草を詠んでいる。童謡の一節のメロディーが口遊み出るユーモアと、ありふれた日常使用の物に、ふと無邪気な動作を行って、 屈託ない感情に浸った姿を描く。他愛なく物足りないと言えるが、軽い即興感で成功した。

土 の 肌  農を厭いし日は遥か 松 浦 外 郎 ▲戻る
 

 対して、これは風と光りの気象の巡りで営む「濃・土」業を、幼・青期に「厭い」郷土を去った「日は遥か」と、 感旧しつつ心に言い難い、見えずして見えるイズムを詠み入れている。地から離れて生きられぬ人の生に、“土”の感触を通して顧みても、 切愛の情を吐露したと謂えよう。唯、筆者は芋掘りしかない経験での主観で、情(こころ)捕らえも朧。

人を恋う  血が鎮み切るまで瞑想 滝 沢 茂 樹 ▲戻る
 

 この句の「瞑想」は、目をつむって安心(じん)して静かに考えるだが、その姿態で「血が鎮み切るまで」の想い入れは、 普通では為せないことで、いえば芯の強さが必要の上「恋う」人への、情を誇張し喩えていると云える。人の目鼻口と心情を一点に集中させる、 行いに一面神妙で哀しいまでの、届かんとして届かない人心のこれも孤独の表白の詠。

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