塔 映 山 声
松 尾 明 美 |
雪多い今冬滋賀・岐阜境いに屹立の伊吹山が、奈良二月堂修二会が終わる頃も、
山容が真に白く遠見され例年よりも、積雪高い象徴光景として、目にまざまざと実感した。関西の山でも雄偉な山容で、
気候変化にも豊み印象強く、芭蕉作 折々に伊吹をみては冬ごもり が心に泛かぶ。京滋と大和は、お水取り後漸く春への暖かさが綻び出す。
辛夷・白木蓮・雪柳、そして馬酔木の花の白さが美しい。
無聊の日 | 足にそぐわぬ白い足袋 | 呼 潮 |
白 手 袋 | 土器にかすかな火の匂い | 辰 一 |
齢 ふ と | 塩の白さの中に冬 | 明 美 |
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土 の 肌 |
軽く遊ばす春の靴 |
渡 邉 君 子 |
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水と土は、生物を育む源で倶にぬくみ持つ頃に、卸し立ての色艶明るい「春の靴」を、心弾みつ「軽く遊ばす」女の、
童心的な仕草を詠んでいる。童謡の一節のメロディーが口遊み出るユーモアと、ありふれた日常使用の物に、ふと無邪気な動作を行って、
屈託ない感情に浸った姿を描く。他愛なく物足りないと言えるが、軽い即興感で成功した。 |
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土 の 肌 |
農を厭いし日は遥か |
松 浦 外 郎 |
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対して、これは風と光りの気象の巡りで営む「濃・土」業を、幼・青期に「厭い」郷土を去った「日は遥か」と、
感旧しつつ心に言い難い、見えずして見えるイズムを詠み入れている。地から離れて生きられぬ人の生に、“土”の感触を通して顧みても、
切愛の情を吐露したと謂えよう。唯、筆者は芋掘りしかない経験での主観で、情(こころ)捕らえも朧。 |
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人を恋う |
血が鎮み切るまで瞑想 |
滝 沢 茂 樹 |
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この句の「瞑想」は、目をつむって安心(じん)して静かに考えるだが、その姿態で「血が鎮み切るまで」の想い入れは、
普通では為せないことで、いえば芯の強さが必要の上「恋う」人への、情を誇張し喩えていると云える。人の目鼻口と心情を一点に集中させる、
行いに一面神妙で哀しいまでの、届かんとして届かない人心のこれも孤独の表白の詠。 |
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