TOP > バックナンバー > 2014年10月
冠句を文学世界に導いた久佐太郎を、冠句で「なんたって久佐太郎先生がいちばんですから」と、 語るのは横溝正史作『獄門島』での、金田一探偵に応える床屋の主が話す場面の中だ。岡山・笠島港からの連絡船で渡船し、 瀬戸内の海に浮かぶ小島の中の、檀寺を舞台の事件小説である。神戸市生まれの作家で、編集者の経歴などが相似ていた。
一読、身膚刺す寒気の句にもあったと思うが、この「刃物」の今夏の猛暑の「昼にいる」暮らし方は、 心頭滅却できない中の感じ受けとして伝わる。感覚比喩での孤独芯。
通常では「花を訪う」とすれば、桜に尽きるがこの「今日を限り」に、 槿花一朝の白や芙蓉の紅が夕に落つ光景観が泛く。叙述の言い取りの作者の心の揺らぎに余蘊(うん)みる。
茫渺として蒼く広がる「海さまよいて」行く、男達の姿に哺乳類の鯨の泳ぎと、 街邑「果てしなき」点滅の夜闇の魅惹を感じる。心掻き立てる大都での屯(たむろ)と命の群れ想像。