TOP > バックナンバー > 2013年8月
澄み透った清爽感が、読み通して伝わる「触れてみる」場景描写だ。光景の仔細は言外にした「高原の香」で、 雰囲気新境地の把握でないが、理屈を濾過した高地の清気を感受した、心調子の張った作だ。音調快く微塵ない詠歎。
作句の機縁にはその眼前の興と、更に心の彼方を思い浮かべ顧みる情趣があろうが、 この句は目前の後に「梅雨の冷え」を感じ、かつ発ち離れた人との距離に孤愁を覚え、時の刻みに哀調を見い出した孤独の嘆だ。感情描写幽懐。
現代のフリーマーケットに、遠い「戦後」の路上“露天市場”を想い重ねている。 叙法を小休止三段に切り「ひとり歩きを」、憚ることなく「した」懐旧光景を語り、今日の生活雑貨の溢れる多彩な風俗嗅を、 イロニー気味に一種ラジカルな視点で感嘆している。無意識に時間経過の憂歎。
晩春行く季節を惜しんでの「花筏」流れる、情景美を描いた一抹の哀愁感だが、 作者は町の喧騒が聴こえる所へ、近づきつつ「瞼に離さぬ」想いを焼く気持ちを詠っている。見送った事情は触れ難いが、俗に眺めても親密さを窺う。