塔 映 山 声
松 尾 明 美 |
句作の趣きにも、句品、句格、句境の高さ奥深さに、眼に浮かび見える明らかな判り易さが、人の記憶に刻みます。
それは衝撃句法による、印象、感覚、描写力で完成する。秀句を多く読み、その魅力が放つ雰囲気より会得しよう。 |
午後の部屋 |
雨に匂えり桃一顆 |
樋 口 八重子 |
▲戻る |
|
まだ秋口でも早い季節の「雨に」捉えた、日常の情景で室内に「匂えり桃一顆」の描写に、
家庭生活の光が影を置いて詠まれている。食卓の一隅景で類景もみるが「顆」の鮮しい色と、艶やかな形が感覚美しく伝わり、
作品に生命の讃歎が込められ、心象想像景だが実情感を湛えている。 |
|
甘 い 癖 |
また読む達治の「乳母車」 |
浅 田 邦 生 |
▲戻る |
|
今日の「乳母車」は、椅子形式で押すにも軽快。三好達治の詩-母よ-の時代の“轔々と”と、
籠形で道を行く軋みの姿はいまは無く、抒情感も違っている。この句「また読む」には、作者の想いも“淡くかなしき”影と、
風吹く並樹のいろを重ねて、母を思い泛かべる感傷抒情である。 |
|
午後の部屋 |
遺書代わりとす吾が句集 |
佐 藤 眞 一 |
▲戻る |
|
この句は、作者の思い入れ濃い「句集」を取り出し、書卓で「遺書代わりとす」感懐で、
改めて「吾が」作品を見凝め直している。一句とて辞世の心懐で詠み続ける作句が、芭蕉の言葉に通じてゆく、冠句作家魂の真骨頂と云える。 |
|
甘 い 癖 |
銀婚過ぎて海となる |
小 俣 紀美子 |
▲戻る |
|
人生を夫婦で歩み暮らしての心懐。倶に添い「銀婚過ぎて」起伏の道程に、
眼前に映り見える「海となる」情感には、全てを受け入れ包み込む海原への憧れが働いている。大きく広がる海潮の色に、しみじみ潤い覚えている情趣。 |
|