文芸塔

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優秀冠句




塔  映  山  声
松 尾 明 美

 京都市中晩夏の風物詩「送り火」は、東山の“大”文字を始めとし「五山」の名で最も人口に膾炙されているが、 実は山は「五つの山」ではなく、松ケ崎の“妙と法”は二つの山に分けて点火され、他の“舟形”“左大文字” そして最後の火床“鳥居形”と、「六山」の中腹に描かれた、文字と形象が少し間をおいて、点火され精霊を送っている。 その中での「妙」と「法」は、書体が異なり「妙」は行書体、「法」は隷書と筆の書風を替えている。 そして読み順が現代的な、左から右に分ける配置になっていて興味深い。

 書での文字分けは嘗ては、右から左に読み書きし、篇額は今も左から右に筆書する。室町期の書としては真に珍しい。 或いは文字は時代を置き“火床”を造ったとも思う。本誌『文芸塔』の題字は、創刊時の書体で『文藝塔』の旧字体を後に用いていくが、 この芸は本来“ウン”で“藝”とは字義も違う。先師が本字体の方を好まれたのは、旧友菊池寛の「文藝春秋」に、通う考えだったかと私は推察。 因みに、本誌発送封筒の字は私が編集時代に、レイアウトし、また指定原稿用紙枡目の割り組み、判型決め原版作成したもの。 千号を超えた機にここに今振り返り記す次第。

 筆法に話を戻して、送り火の“法”は線質がいい。私はれい書を好むもので、曼殊院を訪れる愉しみにしている。

黍 の 風 夜は銀漢を越えて行く 住 澤 和 美 ▲戻る
 

 光景爽涼として情趣澄み渡る「銀漢を」映出し、繊細で感覚雄勁な情景句に描き切っていい。 写生観照でない心象の「夜は」で小休止し、気息籠めて「越えて行く」の言い取りが、季節の万相の動きを捉えて、 ある不思議な感情を惹き起こさせる。なお黍は玉蜀黍も含めても景趣美しい。

冷し紅茶 恋欲しい時顔細り 鞍 谷 弥 生 ▲戻る
 

 百人一首にも思う人への、はげしくてつれない感情の歌残り、 少しの間「恋欲しい」想いにいる歎きも普遍だ。待っても来ないいらだちに「顔細り」と、 告げる感じ易い心裡表情の映し出しが、小詩型の五字音に微細に泛かぶ。

黍 の 風 悲しさを秘め祭りの火 夏 原 弘 志 ▲戻る
 

 霊魂を鎮める「祭りの火」だろう。賑わい弾ける群れの中、 悲業や災厄に遭った「悲しさを秘め」て行う習いで、飢饉を凌いで来た地の由緒と、暗い古諺も併せて伝える。

冷し紅茶 一歩出づればたたかう街 中 川 定 子 ▲戻る
 

 昔は企業戦士と讃えた「街」の経済風潮。現在不況低迷でも変わらぬ社会の姿。 いま「一歩出づ」挙措に伝わり、「冷し紅茶」を喫しての身の充溢感と、心理陰翳が判る。他に、初子氏「昔庄屋」、正子氏「モンブラン」心境快哉。

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