文芸塔

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優秀冠句




塔  映  山  声
松 尾 明 美

 「文芸塔」誌創刊よりの一千号を樹立して、瞬く間もないかに三ケ月が過ぎた。増刷も行ったが残本も尽き、 今少し増しておけば良かったかと、思い返しつつ先師へ些かの報恩と共に、先人各先輩が継続の灯を燃やした力を謝する。 昭和二十八年十二月号 『文藝塔』 (当時の表題字は本字体で、先師が好まれた筆致書) に、三〇〇号記念冠句大会記が、 特集され桜月師が大会の模様を達意に纏めている。紹介略すが“菊薫る十一月三日”各新聞社放送局協賛、始祖菩提寺上徳寺で盛大に開催。 耕堂司会・雨声開会の辞・久佐師登壇挨拶された。後永続塔員表彰・祝辞・祝電披露、そして宿題・席題 (席題は締切二時) の披講に入り、 久佐師は席題謝選で表彰は、宿席合点入賞で行われた。因みに一位は京極二竜、先師も七位、耕堂十四位、私は、湖月・吟柳に続き十七位。 席題の天位耕堂・地位明美。尚、久佐太郎選の天位は貞で十一位だった。和彦が四位等懐かしい。

 この九月、一千号記念大会も塔員挙っての応援を願い、若かった時代とおなじに、冠句の魅力に若返りをと望む。

目覚む湾 喝采のごと遠花火 樋 口 八重子 ▲戻る
 

 緩やかでいて大きな半島に抱かられ、眠りに沈んでいる入江の「遠花火」の美しさ。 華やかさに魅せられ闇を開く打ち上げ音。歓びの嘆声を「喝采」と聴く、率直感が「ごと」の比喩に凡ならぬ、 気持ちの籠もった詠みとなっている。大景万象に見い出し描く“花”の、気息心情が的確。

石 の 肌 小さき魂母を恋う 小 俣 紀美子 ▲戻る
 

 墓参での心象の哀れで、幼児の「小さき魂」を悼んでいよう。子供を詠んだものは多くいずれも、 愛情の傾きになり過ぎるが、愛憐の象徴のにじませ処を中七で小休止し、「母を」ふくよかな情で映していて、 母性感情に即した思い入れを、石肌に刻むように「恋う」として、リリック。

目覚む湾 音階七つ口に乗す 秦 谷 淑 子 ▲戻る
 

 往年の米スイング曲“眠れる入江”を想わせる。そして唱歌の懐かしいメロディーの「音階」へと、 その静かな叙情も伝わる。唄う音域「七つ」を「口に乗」せの感興には、“ドレミ”の歌譜も自然に流れ出て見え、着想心地良い。

石 の 肌 潮のにおいの消えた町 東 城 達 彦 ▲戻る
 

 東日本大震災で「消えた町」とするには、現実が重く上辺になるが“かなしび”が、 詩境のもとであれば「潮のにおい」に心怛(いた)むも自然。失われた生活や風景に、いまも還らず流離する憂き目を、岸の石と想いも濡れている光景。

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