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優秀冠句




塔  映  山  声
松 尾 明 美

 五月号で、雀や小椋鳥が群舞して近くの電線上に並ぶ、小さな異状光景を記したが、いま五月になって町中で燕を目にしないことに気付いた。 最近までアーケードの下でも巣作りし、餌獲りの飛翔を見かけて季節の挨拶のように、感じ受けていたが、今夏はその姿が激減しているようだ。 気象や気温の変調と餌を取れ無い環境からか、昨年来ていた所も燕の出入れする姿を見かけず、淋しい光景である。 雀は以前から少ないとは感じていたが、今年の燕の異変は何か違う不気味さに映る。これからの雨期と七月八月の盛夏が、些か電力事情もあり気掛かりだ。 過般、雹が降り竜巻が起こる被害と、夜は冷え戻るさまに静穏願うばかり。

坂 の 雲 遠き光芒まなうらに 赤 島 よし枝 ▲戻る
 

 小高い丘に出て見渡す風景の中で、自らの来し方と歴史の「遠き光芒」を、 感慨強く受け止め「まなうらに」映し見た詠歎である。眺める想いは心象的なものだが、外景のウチに時空性の内容を含んでいる。 叙述にo・i・a音が自然によく働き、語らずして美しく心酔う抒情味が伝わる。

夜が沈む 頬やわらかく桃に触れ 鞍 谷 弥 生 ▲戻る
 

 描かれているのは「桃に触れ」る肌の感触である。 そこにふくらみ「頬やわらかく」艶めく、女性の本情と天心な果実への賛辞としている。 詠み口は写実の姿であるが、夜の灯下を浴びて反射光を放つような、堪能感を語っており謂えば、 新鮮な一顆を掌上に得て愛しむ心情を吐露している。日常での俗情性の一つだが、季の旬を捉えてもいる。

坂 の 雲 峡に長子として老いし 中 川 定 子 ▲戻る
 

 少子高齢化のいま或る意味で珍しい句材で語っている。 山林深い里の「峡に長子として」誕まれ、一生地を離れず暮らし続ける経緯の境涯観を、勁切に「老いし」と打ち出し、見上げる「坂の雲」 にその涯の広い社会へ出ず、生涯する哀歎である。散文に流れる処を見せ場にし余情感出た。

夜が沈む 海に無名の星の数 小 俣 紀美子 ▲戻る
 

 読み下して心重い響きを感じ、大震災の犠牲者への哀悼で、いまも「海に」分からぬまま、 沈み「星の数」とあるすがたへの哀れみである。心象景の象徴性強いが「無名」への、切実な愛惜が熟語の韻きに籠めて表現されている。 そこに、女流の特質の感情の瞬きが覗き見え、心に届く。

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