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優秀冠句




塔  映  山  声
松 尾 明 美

 春一番が吹か無いまま関西は、春分になったが今年珍しく、例年より一日早い暦日となった。 永年21日だったのが地球が、太陽を巡るずれから生じた異変。うるう年の調整も利かない天文現象となったらしい。 萬年暦がなくて判らないが、これから先更に一日早まる春分・秋分がある由。桜の開花が遅れて今春は寒さが長く、 諺の“彼岸迄”が当てはまらない。地軸の傾度差と公転軌道の位置による、四季が起きる現象に、今私宅の真東に昇る太陽と朝遅い、 弦月の出の後陽を追うように西に渡るのを見、天文の不思議な妙と眺めて、地球に棲み生きていることの感を覚えた。

 そして小さな異状だが、夕方私宅近くの電線上に雀も混じえた小鳥群が、舞いめぐってから不気味な光景として、囀り並ぶ。 これまでなかったことで、鴉や鳶また他の事情で塒を追われたと見受けた。然し良い受けとりをすればこの辺りが、 その小鳥にとって安全な所であると考えた。平安京の頃、この地は朱雀野として吉兆にしていて、鳥にゆかりある地域だったと、鳥の群れるすがたに安堵した。

  汝が生命   蒼穹にかえれと鳥放つ  久佐太郎
  好々爺   鳥の言葉がよくわかり  桜   月
  崖の下   鴉が歩くから寒い  辰   一
  何目指す   風よりはるか春の雁  明   美
匂 う 中 再びまみゆさくら木よ 野 口 正 子 ▲戻る
 

 開花の遅い今春だが、桜咲く日を待つこころは日本人の特質。 東日本大震災から一年、ひたすらな想いが「再びまみゆ」と、感動の籠もった詠みぶりに窺える。 この作が詠まれた頃はまだ蕾もない時期、従って感覚の上の「さくら木」と言えるだろう。 その桜の花の形容を捉えず、感歎した「よ」に精神的な憧れが匂う。そして“花相似たり”の名詞が泛かび、心情重なり印象美しい。

声やまず 痩せた文学論に怠む 三 村 昌 也 ▲戻る
 

 現代は骨格太く永遠性豊かな芸術が必要だが、社会経済の複雑さからいつしか「痩せた」姿になった。 作者はその傾向の「文学論に」期待しながら、現実生じない今日の世情に「怠む」想いを抱いたのだ。 日常生活に無用のようで人生に有要な文学。翻って冠句論も細ってきている。先哲の労作を心にすべき嘆き伝わる。

匂 う 中 無傷の月を吹き落とす 中 川 定 子 ▲戻る
 

 一読幻想化され抒情味を潤色された作品。この「無傷の月を」は春の満月で、 まだ冴えた感じに見える明るさの措辞だろう。直截な感覚での叙しようで、或る目ざめの驚きの現れがある。 句は作者の気分の匂いを籠めており、主情の「吹き落とす」も快適。

声やまず まだ折り合わぬ子の進路 滝 沢 茂 樹 ▲戻る
 

 今日の不透明な社会事情を背景にした、受験期の「子の進路」を案じる指摘だ。 淡々と述べながら「折り合わぬ」現実を、手に余すかの不満で「まだ」と、どうしようもなく嘆いている。 あり勝ちな日常生活の描写だが、小市民の場面を率直に語り告げた。

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