本誌「文芸塔」四月号で、『近代冠句講話』(上)(文芸塔叢書第四巻)、の「序」文内容、つまり、
冠句史素描の概要を紹介したが、先師久佐太郎はその項目の中で「連句の廻吟と」の、冠句形態を述べる処で「そのむかし宝塚文芸部の同僚久保志方君と一巻まいたもの」と記し、両吟を掲げている。
それは、俳諧の連句を二人で酒興の上で連吟を巻いたものだが、句境の真の趣向である
「派手に受けてこれを地味に流し、寂しとうけて華やかにひらく、凡そ境地の千変万化これ連句や廻吟の妙味」であること、を作品で示された。久保志方は『寶塚國民座』誌に、
創刊号から編輯に携わっていて、先師がその「文藝部」に係わったのは、昭和四年五月よりであったことは、私が本誌「九月号」で披瀝したが、久保志方は「文芸塔」の編集にも名を連ねている。
先述の、先師と志方の一巻を吟じた「冠吟連句」は
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置炬燵やけが呷ったコップ酒 |
久佐 |
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窓には雪がふうわりととけ |
志方 |
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大掃除もがれた雛がふと見つけ |
志方 |
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薮際近く捨猫が鳴き |
久佐 |
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蕗の台ぽっちり春の色を見せ |
志方 |
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火花を闇に煎り立て豆屋 |
久佐 |
後句は、省くが想の取り方や句の受けようが興味深い。
冠句形態には「廻吟形式」があり、その作句法は「発句に始まって揚句(又は挙句)に至る三十六句
(十八句も)全巻を通じて、読み下すとき、そこに生きた絵巻物を見るが如き興味を湧き起こさせる」もので、連句と違うのは「廻吟では下五を直ぐに次の上五にとる関係上、名詞止を避けて動詞止にすること、
第一句は品位卑しからざるもの、揚句の座五は発句の上五に還って巻き納める事が約束である」とし、「その道行(進行)も絵巻物の心得で、場面の変化を尚び、単調・重複を忌むこは勿論」と例句で示した。
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発句 |
二人づれ |
連吟が出てチト困り |
久佐 |
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ワキ |
チト困り |
媾曳犬の園を出る |
紅陽 |
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三 |
園を出る |
振袖萩の露に濡れ |
志方 |
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四 |
露に濡れ |
伊勢講浄い声で立ち |
紅陽 |
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五 |
声で立ち |
清姫の猿鐘を撞き |
久佐 |
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六 |
鐘を撞き |
ステッキ奈良の春に酔ひ |
志方 |
「この作法を批評すれば、発句(一句目)ワキ(二句目)とも句品下劣でいけない。それを第三句目で綺麗に救い出し、四句目は前句の静かなしっとりした情景を受けて、
陽気な伊勢講を活躍させたかと思うと、五句目で難題を見事に克服して而も飄逸な猿芝居へ展開させ、六句目では亦ガラリと近代的な我々の生活相に接近させている」と解説。
これらは「事始式」の作句における参考になろうと思う。
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