文芸塔

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優秀冠句




塔  映  山  声
松 尾 明 美

 今秋は猛暑日に加え夜もむし暑かったが、盆の月も名月も良く眺められた。 とりわけ、大震災と12号台風水害があっただけに、天の理に感懐を覚えての眺望であった。そして月光とともに、金星の輝きが一際美しく私には感じ見えた。 天文の運行の巡り合いの妙であるが、明星の瞬きが半月から下弦に移る軌道を、添うように在る光景が、何か浄く眼にしみた。 天地の動きには無常の想い深めるが、みじんも偽りない真理によると改めて強く識った。大震災を天罰と言った者がいるが地球上に起きる、天然の計らいには千年百年に災は生じても、天の理に間然する処無いと考える。

 有るのは文明で生み出しながら、それを人知で制御できなくなる怖さを痛感することだ。 いまもまだ爪痕癒えぬ地域の怛(いた)みを考え、虫の音が聞こえ秋草や樹花が匂う風に、無常で無く風光と翅の弦歌を趣とする季節を愛したい。

 白 と 黒 虹消えて海すでに秋  久佐太郎

 霧 青 く 奥へ奥へと山法師  静  耕

 朱唇燃ゆ 月に願えば逢えようか  流  峰

 春 仕 度 暖流胸にたぎりくる  恭  子

深 い 渕 見上げるほどに空蒼む 浅 田 邦 生 ▲戻る
 

 この「渕」は「淵」の略字で、水をたたえうずまく象形で、ひいて深い意味を表わすから、 渕玄や深渕の言葉が生じていった。従って句境が尽くされているが、その淵(えん)意(い)に唯眺め終わらず 「見上げる」姿の挙措、何か吸い寄せられる"ふしぎな美しさ"への憧憬が込められ、渕のいろを映じた「空蒼む」情景に、 神経を集中させて詠んだ「ほどに」が、ゆえ遠い審美観を語り将に表顕。

積み重ね 平らかな海いま視野に 野 口 正 子 ▲戻る
 

 水の惑星の地球は、杳かな営みで命を育くみつも、ときに猛威の風と浪の渦を、 有史文明の世に見せて来た。災害は消え得ないが「いま視野に」ある爪痕を除き、浦々に「平らかな海」の景に戻る力を、人は拾い集めて生きる。その哀歓交々の相の光景だ。

積み重ね 手触れば不意に刃鳴りして 住 澤 和 美 ▲戻る
 

 こういう感覚の比喩句は、余り句解を入れぬ方がいい。実感写生でも一瞬のスケッチでなく、 作者の目と心働きで「不意に刃鳴りして」の措辞に、並みでない感触を覚えた"光陰"の勿然と現れる映りが見える。中七の「手触れば」淋しくも愛しさへの歎。

積み重ね 一菜で足る晩年へ 滝 沢 茂 樹 ▲戻る
 

 こちらは、世間の見栄や欲を手離したかの「晩年へ」に対する希いを、そのまま呟いている。 通常は"一汁三菜"であろうが、敢えて「一菜で足る」と吐露を強めての処に、現実病者で無い限り執着があり難しいが、少し切なさも籠めた願望と微苦笑誘う。

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