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優秀冠句




秀  句  鑑  賞

 芽吹きの季節に入った。関西は"お水取り"の寒が続くが、陽射しは明るく春匂う眩しさの中にある。この号の五月発刊頃は樹木のいろの美しい、風薫る外景になっていよう。五月は菖蒲の節句で私は、四月末の日曜に床の軸をそれに習う絵柄に替える。がいまは桃の節句絵を蔵うかどうか、と思っているときで、先ずこの「塔映集」の原句を清記しつつ、選句と句評を考え始めている。ここ迄述べて来てこの筆といってもペンシルだが捗らない。

 三月十一日、「東日本・東北関東大震災大津波」が発生した。
私家は揺れ無かったのでその災害時刻を知らず、迂闊に過ごしていて、夕刻の定時ニュースを見ようとTVの、電源を入れて目を疑った。東日本を寸断浸水する悲惨な映像に、大自然の怖さに驚愕し、加えて原発の被災もあり、唯々爪痕の早い癒えを願うのみ。

 思い顧みると二年前の八月初旬にも、東海駿河湾で強震がありそして台風により兵庫県で豪雨被害が発生、その時もこの「塔映山声」文の、筆を下ろしはじめていた処に「豪雨・地震被害」が起き、急遽本誌九月号校正時に編集の広洋氏と打ち合わせ「災害地御見舞」を載せた。今回も四月号校正時に「災害地御見舞」をした。が此の度の「大津波」葉歴史的にも未曾有な、天変地異の脅威現象で言葉を失う。二年前の災害に句を捧げたが今は重い。

以前「方丈記」の鴨長明の文を引用し、"羽があれば"と嘆息した文を書いたが、それ以上の天災の地震(なゐ)と大津波であった。

海沈み 三・一一どどど裂け 明美

 筆を初めに戻して京都は静穏の中、馬酔木が咲き沈丁花が匂い辛夷が蕾を開き出している。その光景を眼にまだ医院通いの一身上で、春の訪れ眩しみに待つ思いを強めつつ震災地に心怛める(ここ迄書き綴るのに、五日間手がつけられぬままにしていた。)本誌五月号の季節は、冠句始祖堀内雲?の祥忌で、五月二日が命日の「冠翁忌」である。先師久佐太郎が制定し霊?句碑も建立され、頴原退蔵博士の碑誌も刻まれている。
今年は建立より七十七年目にあたる。処でその堀内雲?の命日をすらいま、誤っている傾向に流れている。冠句史実や本質正しい作句のあり方で、前月号で紹介した「冠句講話」や「入門書」の刊行が必要に思う。

 冠句とは、上五文字を詠み出す言葉への句心高い、詩嚢作用の愉しみにつきる。そのこころの働きによる詩興は無限に広く深く、自然と人生、生活の哀歓、人間感情の機微、完成や感覚と色彩感など、作者の創作心と個性を出し切っても余りある面白い世界。従って、句を書く楽しみの心のアンテナを常に自由に巡らせて捕らえた"かたちやすがた"を確かな描写力で一句にすべきだ。

  冠句の成り立ちの歴史を詳しく述べないが、歌体の七・五の対偶する必然で、"五文字が倒置され"哥仙の句立の詩型としたものである。それが「題詠の姿をとる創作吟」の冠句性だ。ともあれ課題吟だけが冠句では無い。句心豊かに自由吟も書くべきだ。例を言えば「震災」を詠むのに。課題は誰も必要としない。

木肌撫づ 死者にも時間過ぎゆくか 川 口 未 知 ▲戻る
 

 故人を偲び慕う情も日月とともに、遠くして幽かになり「時間過ぎゆく」思いが迅まる。とりわけ肉親や慕う人への懐情は静かでいて深いだけに無常だ。この句の「死者にも」の呟きは一切の情を透明にした慨嘆なのであろう。そしてそれは今は暮らしの外に、影として姿を捉えている。折しも春彼岸切ない懐情。

地下街路 国滅ぶ日の予感あり 浅 田 邦 生 ▲戻る
 

 何か終末期の寒々しい文明社会を批評した眼で、大都会の景を概観して「予感あり」と有り得ないであろうが「国滅ぶ日の」正解を想像している。敢て"滅ぶ日"と心底に刻んだ詠みぶりに、有事の時、"核シェルター"ともする「地下街路」を、作者は肌で感じてのころだろう。文芸の一分野で尽くせない重い主張。

木肌撫づ しーんと息の現るる 鞍谷 弥生 ▲戻る
 

 樹齢信じ難い大楠や縄文杉が存在する。私もその一つを知るがこの「しーんと息の」措辞に、亭々として蒼古な樹相を観ている感が分かる。詠みの伐り口は無心なままで鮮やかしくないが、平明なスケッチに墜ちぬ「現るる」の描写で、姿孤高で美しい様出た。

地下街路 長雨の日の安らぎに 松浦外郎 ▲戻る
 

 都会生活でのある一刻の「安らぎ」を屈曲つけず「長雨の日の」と軽妙に一本調子で叙して「地下街路」を欣ぶ姿である。
目前の情景はあれこれ言わず、思い濡れそぼる外景の季節の鬱陶しさを逃れる、市民環状をこれ迄の作風でない詠み口に感じる。

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