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優秀冠句




秀  句  鑑  賞

 近代冠句講話』 (文芸塔叢書第四巻) 昭和二十八・九年刊に、
一、 かくて冠句に関する限り (略) 現代の指導者、 作家としての資質に最も適正な基礎的教養を身につけ得たことになろう。

一、 よく云われている近代乃至近代性ということは、 遠く渕源をかのルネッサンスに発し、 初めて人間自覚の上に立った最も大きな精神運動であって、 その中にリアリズム・マティリアリズム・インディビデユ・リアリズム、 の幾多今日的世界思潮の萌芽を包んでいる。 日本に於てもその影響を受け、 史学の時代区分常識に従えば、 明治年間より最近七八十年に相当するといえる。

一、 もっとも今日では再検討されているけれども、 明治期に入って文学方面では、 透谷、 四迷、 逍遙、 外、 藤村、 漱石等にその影響が現れ、 またわが邦特有の庶民文芸、 ― 庶民生活に直結した短詩文芸部門では短歌、 俳句、 川柳が相前後してその思潮に伍し今日の基盤を作った。

一、 冠句はどうであろうか。 等しく庶民文芸の一つである冠句はいわゆるこの日本文化のルネッサンスとも云うべき開花期たる明治時代には何をしていたろうか。 そしてその後の足どりは。―

一、 冠句の歴史は々述べられ、 正風冠句の日本文学に占める位置づけは、 今日漸く一部の良識を得るようになったか。 こうした一面、 冠句に於ける近代精神の研究はなされていなかったようである。 本書はそこに主目的を置いて書かれたものである。 即ち、冠句に於ける近代精神の形成史― そんな心構で読まれたならば得るところ多いであろうと信じる。

  以上の文は、 一部字句を省略割愛しているが、 要は、 冠句の指導者の素養として、 身につけておくべき資質・見識の大切さを説いた書で、 これまで参考書を必要とせず、 その結果、 選句者を含めた興味と、 恣意なるすがたのまま文学とは埒外で済ませている作句水準を、 正風冠句運動による久佐太郎精神と、 その良識で今日の芸術文芸の域へ、 引き上げ得たことの正しい冠句に対する再認識で 『冠句講話第四・第五巻』 が編纂されている。

  「その上で結びとして、 これからの作家、 指導者たらんとするものは少くとも如上の知識は修めておかねばならぬ」 と記されている。 そして 『冠句の諸形態』 を述べ 「冠句詩型は従来の上五文字得て十二文字を附句する一句立形式と、 作者自らその時の感激感興によって上五文字を詠み、 それに下十二文字を附句する自由吟形式の一句立てがあり、 更にそれら二つの一句立の詩形以外に、 俳諧性の発展過程としての形態が生まれている。 今日多少とも冠句に関心をもつ作家達は、 その初心者であると否に拘らず、 一応これらについて知っておく必要がある。 そこで何より連作のことを語りたい」 と、 久佐太郎が作例と共に著述し 「次に冠吟連句と冠句廻吟との二形態がある。 前者は殆ど俳諧の連句で」、 同じく廻吟を 「境地の千変万化これ廻吟の妙味である」 ことを、 具体的に評釈を試み、 初心者の参考に資したいと思う。 と記している。

  昭和四年に 『現代冠句大観』 出版以来、 冠句人必携書としての集約が、 即ち第一巻 『雲皷点・夏木立』 第二巻 『堀内雲皷研究』 第三巻 『正風冠句新講』 で、 冠句一般常識そして前述の二巻合わせ、 冠句教養を説き終わっている。 今日これを識る人尠く冠句史実や芸術性と自由吟について、 弁えも無く自己流の考えで、 取り違える向きが見られる。 その意味で冠句を文芸復興させた久佐太郎精神の著述を紹介した次第。 よく玩味して欲しい。

青む河岸 手に塩つけて歯を磨く 三 村 昌 也 ▲戻る
 

 日常生活俗事の断片で 「歯を磨く」 情景にすぎないが、 起臥茶飯の慣いに 「手に塩つけて」 の挙措が、 想い改めてのように描いてある。 平生は歯ブラシを使っている処を、 昔ながらの所作で新たに意識した確かな季候の妙と、 健全への目覚めを詠嘆した。

深睡り 残雪に山身じろがず 渡 邉 君 子 ▲戻る
 

 端厳な 「残雪に山」 の外景美である。 冬山は眠るが如しの 「深睡り」 に、 凍てたかの姿を 「身じろがず」 と偉容して、 麓より眺めて強く魅せられた感歎を告げている。 描写景は概念性のある叙しようだが、 湖北に住む人の心懐がいろ濃く裏打ちされている。

青む河岸 ちちに似て来し新背広 沢 田 清 敏 ▲戻る
 

受けとめようで微妙複雑な 「ちちに似て来し」 の容姿だが、 社会人として初めての 「新背広」 姿を語って、 自立してゆく青年を讃えていると言うべきだろう。 典型的小市民の子の親としての情感の大掴みに、 その境遇をしみじみと想い計る心が描き出せた。

深睡り 戦中戦後は重ならず 奥 山 呼 潮 ▲戻る
 

 時代の変遷を生き抜いて来た人の感懐で、 籠めてある主情内容は深く 「重ならず」 と、 吐露した叙し方は作者の語彙の深さで、 全人生の史観でも 「戦中戦後は」 と、 切り込む眼も独壇場で心境の量感も大きい。 寂寥さにピリオド打てない底深い悔恨がある。

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