文芸塔

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優秀冠句




秀  句  鑑  賞

 この号が筆者の年明けの初稿で、 今年始めての書き起こしとなる。 大晦に積雪があり未だ少し残雪を見る、 寒波厳しい三ケ日だった。 雪の多い年は豊作ともいわれるが、 雪による被害も避けられず、 雪降る日の災い少なく、 平らかでよいこと成るを願う。  

 新しき年の始の初春の今日降る雪のいや重け事 家 持

  万葉集最後の一首によせて、 その年から一三五二年の正月雪舞いに、 昔も今も渝らぬ想いで家持とおなじ心で幸いを祈りたい。 万葉集の第一首は、 雄略天皇の作歌で始まっているが、 その歌が雄略紀年中の春季であるところから、 或いは二年目の卯歳かも知れぬと考え、 本年がその歌にあやかれるようで慶ばしいと思う。 古事記や書記・説話で英雄君主とされ、 倭王武として勢威を伸ばした。 歌風には明るく若々しい感じと、 大らかな性格を持った印象がものがたられ、 求婚の情で声かけられた乙女の、 籠に菜を摘む姿とともに、 一面に広がる平穏で美しい国原が見えていい。

  処で 『文芸塔』 創刊の昭和二年 (一九二七) が卯歳であり、 そして先師久佐太郎が卯歳生まれで、 生誕一二〇年の今年の卯歳、 京都が 「国民文化祭」 の開催年に当たることに、 その機縁のめぐり合わせを、 洵にふしぎな感で受け止めさせられている。 漢字の初は、 衣類を作る布を刀で裁断することを示し、白い神衣や祭の衣服や、 産着の晒木綿を指すとも言われている。 兎も白うさぎが特徴であることは、 誰もが直ぐ思い描くところである。 新の字も、 伐り口が鮮らしい若木が字義で、 桜や桧は将しく白い。 今年冠句は新人の若々しい作者が増え、 そして跳躍へ導く新しい人のちからをと念願し、 雪多い初春をその前兆と見たい気持ち。 従って、 卯歳生まれの出発ちを祝福し心から期待する。


光る中 壁画の鳥のはばたきが 野 口 正 子 ▲戻る
 

 古今東西 「鳥」 に、 人はあこがれを持ち王の象徴や、 瑞兆として描き用い、 音楽や絵画の主題になり方角でも朱の鳥を南としている。 この 「壁画の鳥」 も権威や信仰と祥のものだろう。 いまにも翔くように 「光る中」 の、 鳳容が捉えられ神秘でめでたい。 因みにダ・ヴィンチ絵画の天使が告知する、 翼の美も私は思う。

一しきり 咳きて今日始まりぬ 上 田 國 寛 ▲戻る
 

 おとこの或る一面を衝いた 「咳きて」 で、 作者の職掌習慣を捉えていようか。 咳は男女誰にもあるが 「今日始まりぬ」 と、 稍緊張気味の吐露に、 これからの用向きや業務への関わりの程が語らずして洩れ、 寒冷身に沁む早朝の気と、 周りの家人や携わる者への、 心理的な息遣いが巧まず出ている。 それでいて気概が繊細。

光る中 哀しみの果ての星あり松 浦 外 郎 松 浦 外 郎 ▲戻る
 

 一読人生万象の相との存問というべき、 重々しい死生観から見凝めた 「哀しみの果て」 が、 端厳な語調で打ち出されている。 平生では感じ受けない 「の星あり」 と、 言い切った目視した的確な感情も如実で、 瞬き合う昴への生命讃歎が 「の」 に響き伝わる。

一しきり 百寿を書いて筆納む 松 井 英 子 ▲戻る
 

 筆蹟に 「寿」 を撰して賞でた軸装が遺るが、 この 「百寿を書いて」 は、 年頭に墨滴に親しんで目出度さを称える挙措であろう。
楷・行・草・隷・篆さまざまに、 運筆も変えて書字を揮い 「筆納む」 部屋での、 緊密な心情が言外に滲んで見え、 自祝が匂う。

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