文芸塔

文芸塔社とは?ページへ 行事予定ページへ 優秀冠句ページへ 投句ページへ イベント報告ページへ 冠句のお誘いページへ バックナンバーページへ 問合せ先ページへ

TOP > バックナンバー > 2011年1月



優秀冠句






秀  句  鑑  賞

 今秋のもみじは美しく鮮やかであるようだ。京都自慢になるがその彩りは、古都の品格にふさわしく照り映え心愉しまされる。とりわけ東山の永観堂や真如堂などの名所はまさに絵画である。

月あらで 猿(ましら)を聴けり落葉しきりに    久佐 太郎

落葉しきり  木移る猿(ましら)ちらと見き    久佐 太郎

 先師が洛東法然院の総門に連なる、森径に住まわれた吾楽荘の吟で、鬱蒼として昼なお暗い窓向こうの森から「この辺はよく降りて来るんですよ」と人の言う奇異なるままに詠まれたものだ。
昭和二十四年の当時は、野兎なども居たのを少年期だった私も、目にしたのを憶い出す。猪威しが風流ではなく役立っていた頃だ。処が、今年は楢枯れが多い影響か各地で、熊が町へ出没して人を襲い傷つける事件を聞き、環境異常の現れが冬眠支度の熊の生活行動に及び、今夏の猛暑続きが動植物にも大きく係わっているをことを思い知らされたが、それが秋の楓にとっては、色づきを良くしての" もみじ葉"になっていて、自然風景の美に心いささか複雑であるが、 その今の景観や生活感情の美や哀歓を、冠句に詠むには"題詠の姿をとる創作吟"として、自由発題に因っての作句が将しく、最もな詩因詩型に叶うことに考えに至っていく。

大銀杏 にぎりこぶしの力無き    久佐 太郎

大銀杏 おさなき夢に通ふらむ   久佐 太郎

羨やまれ すゞなりの柿抱く土塀  早川 桜月

晴れ岬 十一月はただ深し 鞍谷 弥生 ▲戻る
 

 海峡や半島を見晴るかせて明るくも、美しい景観に想いを馳せながら今「十一月は」を心象で映し返している慨嘆ではある。暦や気象も立冬や昼の望月に、冷気から紅葉の美に加え祭や婚礼など、生活と人生の襞を「深し」と受けた心境が明彩で濃密だ。

尖る樹木 現わに見える瘤ばかり 住澤 和美 ▲戻る
 

 風雨の強さにも年輪と枝を伸ばした樹幹に、耐えた痕の「瘤ばかり」が「現わに見える」光景が、
人世起伏と明暗の相と似た暗示と受けとめた述懐と云える。樹相が露呈している木瘤は、枝折れや鳥獣による傷痕だが、泰然と立つ姿に滅び無い相貌を語る。

尖る樹木 町の工場の灯を奪う 夏原 弘志 ▲戻る
 

 都市や町の生活に欠かせぬ、物造りの技術と雇用で繁栄を下支えた「町の工場」が、不況の嵐で閉じた今日の社会情景で、説明不要だが「灯を奪う」に、その痛みへの作者の心境が描かれた。

晴れ岬 わが航跡の遠のきぬ 浅田 邦生 ▲戻る
 

 旅懐に寄せての吟の多い作者の境涯観で、海湾の眩しい賑わいにも「わが航跡の」消え残る哀歓を瞼に刻んでいる。その躁にして
朗らさの歎を「の遠のきぬ」と、ou音で低く歎じ色濃くした。

HOMEへ戻るボタン



Copyright:©2005-2017 bungeito-sya All rights reserved.