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優秀冠句






秀  句  鑑  賞

 古代歌謡集で 「万葉集」 は一般によく知られているが、 天平時代に石に詠まれた、 国宝の 「佛足石歌」 は歌体が漢字一文字にわが国の語一音を当てて、 形式も五・七・五・七・七・七として、 仏足跡を讃えた歌を万葉仮名字で、 碑に刻んだ天平期のもの、 文字の無かった古代の日本で、 漢字を借り二十一首を詠んでいる。

  詳しくをここで述べる必要もないが、 釈迦牟尼仏の御み足あ跡との功徳が、 天地まで震動=感動させる追善の歌詞は洵に諧調でいい。
毛呂毛呂須久比 和多志多麻波奈 須久比多麻波奈  
この、 七・七・七から歌の短歌と連歌体が生じてゆき、 また"いろは"歌の"ひらがな"が創られた、 文字と詩型の経緯は深奥。

  冠句の五文字は、 連歌体型の下七が転じて置かれた句立であって、 従って、 冠題とは謂っても詩型上"題"で無いこと明らかで深い、 歴史的な必然の上に成り立っている世界だと識って、 冠句の文字遣いの愉しさと奥深い興趣を、 併せ持つ作句をと思う。

人往き来 葬のあとさきしぐれして 川 口 未 知 ▲戻る
 

 悼句と見るべき情景描写で、 このまま読みとるだけの方が功徳だろう。 京都的風土性の象徴 「しぐれして」 が、 その 「あとさき」 によく移り合い、 a音とe音がしみじみと行き合う姿に沁みる。

尖る声 冬灯ばかり過疎の奥 前 田 八 州 ▲戻る
 

 今日の世情の深刻さを切り取っていて、 逆に 「尖る」 より嘆声すら失いそうだ。 街から転住を募る施策の所も在るらしいが、 この 「冬灯ばかり」 の景に、 洞然と残された厳しい寂寥感がある。

人往き来 交わす視線の深マスク 渡 邉 君 子 ▲戻る
 

 現在の社会情景を詠んでいて、 時代が過ぎると句解釈が違うようになりそうな、 インフルエンザ禍の人間かん模様だ。 一時より沈静したが 「深マスク」 の人の 「視線」 に、 作者の感受性が窺える。

尖る声 軋み続ける禿びれ椅子 加 納 金 子 ▲戻る
 

 これも今日性の世情を嘆じていよう。 湿潤陰翳礼讃をしていた昔は遠くなり、 人心荒れ凭る椅子も 「禿びれ」 が、 将に切ない。

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