文芸塔

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優秀冠句






秀  句  鑑  賞

 冒頭に18号台風による被害をお見舞い申し上げます。京では神社の樹齢百年の桐が折れ、古刹の葦屋根が傷んだりした。私宅では早い目に簾や鉢植物を屋内に収め、風雨から守ったが近隣の旧いケーブルが弛むのを見て、伊勢湾台風の災害を憶い起こさせられた。当時は表のガラス窓にベニヤ板を打ち風害を防いだが、瓦屋根が紙板のように飛び、電柱が倒れ電線切断で停電があったのを、今も覚えている。今回は小枝が道に散り敷く翌朝の景に、休校解除の時間遅れで登校する生徒の集団列が妙に印象された。

風の修羅 いんいんと鋭き秋怛(いた)む    明 美

  冥い話と対照的に、平成生まれのバイオリニストが、独ハノーバ国際コンクールで優勝や、囲碁で久しぶり日本人の最年少名人位獲得する朗報と、大リーグのイチローが新記録を樹立更新し、尽きない高い目標への進化を自ら克服して見せたり、同じくプロ野球パ・リーグの楽天の老将野村監督が、弱体球団を改造CSステージへ進出、仙台の地にイヌワシの目を光らせ翼を翔たかせた。いずれも生来持っている力量を磨き、高め伸ばす意識と努力の積み重ねが開花した証しといえる。これらを冠句に当て嵌めてみると、やはり文学文芸も「言葉のデッサン力、イメージが鮮明に目に浮かぶ、抒情感性の豊かさ」に、向けての上品(ぼん)な感興へ傾心してこそ、冠句性の奥深い楽しさに親しめる作が成るといえよう。

子らの天 枯野を限度までひろげ    桜 月

  全句を通しa・c音のたたみかけが、リズム感と共に躍動する働きを見せ印象たけ高くしている。冠句の特質を十二分に発揮し、二句一章の詩型をひきしめていると、句集評釈で私が述べた作。

匂い立つ 花野の果ての見えざれば 樋 口 八重子 ▲戻る
 

 秋草の咲き乱れるのが「花野」で、類想句の多い景趣だがこの句は、人生旅懐の華やかさと寂びしさを添わした「果ての」と、いう感情細やかな目線が働き、溢れ広がる思いに没して「見えざれば」の詠嘆になったのだろう。そこに作者の濃密さが出ている。

石の肌 罪なお消せぬミサに在り 野 口 正 子 ▲戻る
 

 刻彫された大理石の教会堂での「ミサに在り」の、敬虔な祈りの光景を想い描いていよう。そして敢えて「罪なお消せぬ」と、よく用う反語で人の性の哀れを言い漏らしている。その心重い表現に新味はないが、感情に即した一般性は誰にもある心境の姿。

匂い立つ 晩年の影地に捺せば 三 村 昌 也 ▲戻る
 

 物淋しい何か失ったものを懐かしんでの「晩年の影」である。その主情の大つかみな心の感じが「地に捺せば」の、現実の上に重ねて、世俗生活に起き臥す中での哀歓と意力を詠んだ処が勁切。

石の肌 谿に一戸のあまご宿 嶋   弘 法 ▲戻る
 

 落ち着いた山間部の釣り客を待遇する「宿」光景だ。獲れ立て「渓流」の石焼は旨く、又秋の産卵期の味季(しゅん)は格別。その「谿に一戸」の淡彩画的描写が、魚の斑美しい姿と晩涼感を映出した。

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