文芸塔

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優秀冠句






秀  句  鑑  賞

 彼岸前の日の出が、K海峡の向こうの山霞む上に見事な耀きを放って昇った。波穏やかな海に一瞬陽の輪が揺らぎ見え、太陽の荘厳で謐かな眩暈さを、久しぶりに躯に感じ命の源泉に浸り直して、ふいと《遠き山見ゆ 遠き山見ゆ ほのかなる霞のうえに、はるかにねむる遠き山 遠き山山……》達治の詩を想い出していた。前号で、東海地震・局地豪雨被害を述べて、自然の酷烈さを思っただけに、太陽の巨きさに改めて天道の理に畏敬した朝だった。
 ヴァレリーの詩篇に《いま 太陽の薔薇色の出現の姿に たちまち散り散りに 消えて失くなる。自信の翼を一杯に拡げて……これが 最初の祈りなのだ》がある。詩の心は昔も今も洋の東西渝らない。従って冠句も鮮烈で優しい琴線を鳴らす、愉しみとよろこびで創作したいものだ。唯、喜びや楽しみもその一歩手前の処までは、苦心や張り詰めるような集中力が要る。それを超えた先に、真からの悦びが待っている。それが本当の趣味と言えよう。

陽は海に しばし忘れた基地のいろ久佐太郎

先師の作は一九五四年(昭二九)沖縄などの基地は、未だ占領状態の駐留軍の治外法権下。核なき世界・無基地の国を念じたい。

道すがら 萩に聞かせなわが一句 松 浦 外 郎 ▲戻る
 

 万葉詩歌より秋は「萩」と詠われている、雅名も多いその「萩に聞かせな」と、感歎の思い籠めた詠みぶりに、名句が伝え物語られる力への願望が出ている。一枝に吊るされた短冊の「一句」が、風にうねるようにイメージ美しい景物との感合があり佳什。

道すがら 運河の町を漂えり 浅 田 邦 生 ▲戻る
 

 何か心境小説の一節でも読むような、感偶深い「運河の町」での描写である。河幅も大きく長い街景であろう、流れに映る独特な雰囲気が「漂えり」に見え、その異国的な風土性の光景に、生活感の孤独の嘆が「を」の小休止に洩れ、自分の影を見ている。

道すがら 百の螢が身をよぎる 中 川 定 子 ▲戻る
 

 こちらは対して美しい夜外の景に、女の情のほのめきを「百の螢が」と、その美観へのおののきを「身をよぎると」少し大仰に表現して、その心情裡に数量感の言外に官能性の暗示もあろう。

雲眺む 老犬の顔哲人に 高 岡 ひろみ ▲戻る
 

 この「老犬の顔」には盲導犬のような、賢明で親わしい風貌が見え「哲人に」と、人間味な言葉で賛えたのだろう。作者の愛犬かは別に傍に踞る姿態に、雲と似た悠然さを感じ頬ゆるむ思い。

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