文芸塔

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優秀冠句






秀  句  鑑  賞

 立秋後に筆を起こそうと考えはじめていた処に、 東海駿河湾で震度六弱の揺れがあり、 併せて京都で気温三十六度近い猛暑に、 文頭が鈍って了った。 加えて台風九号の影響による雨で、 兵庫県他の地域で豪雨被害の発生を、 報道で見受け心重い痛みを覚えさせられている。 衷心より被災地にお見舞いの辞を先ず申し上げたい。

天地壊え八月いたき胸の芯     明 美

 短詩文芸の一分野に人間性と自然の心象景を詠む、 リアリズム確かな抒情詩が、 冠句性の本質で日々の生活投影と、 人生諷詠の色彩明暗や哀歓を、 二句衝撃の手法で書くことが冠句と言える。

時きざむ死の灰と見えず時雨うつくし     久佐太郎

 以前にも述べたように、 二句十二文字文芸の"五音"は 「感想部」 として、 詩型上成立したもの俳諧エッセンスの所以である。 詳しくは省くが、 その付合の照応美を追究する句作りをしよう。

水澄みぬ 被爆の修羅を秘む直下 大 橋 広 洋 ▲戻る
 

 この町に京都の旧市電が走っている。 戦禍少なかった京都と較べ複雑な感である。 終戦も間近な時車窓が鎧扉を下ろされて、 その広島を父と通過した記憶が私にある。 小学生で惨状の現況は判る術も無い。 作の 「被爆の修羅」 が今胸に甦り水映る陰翳重い。

甘い粒 夕日が好きになる岬 奥 山 呼 潮 ▲戻る
 

 スケッチ風だが句調に親しみがあり、 句形の変化が自在に働いて、 口遊んでも句姿の美しさが眼前する 「夕日が好きに」 の景観美だ。 作者の住地の描写で 「なる岬」 が説得力を持っている。 「甘い粒」 との照応が身中に溶け入る妙で、 心の姿を映し得た。

甘い粒 鬼さん寂しい顔になる 栃 尾 恵 羊 ▲戻る
 

 この 「鬼さん」 は大津絵の鬼の姿態を写していようか。 鬼は人が変化した面を被った霊魂、 神霊で不思議な力持つ陰のもののけとも。 従って 「寂しい顔」 にも人を魅きつける心はある。 芭蕉の句もあり、 私も 「手を鳴らす」 作を成した。 甘くも勁切な句境。

水澄みぬ この里にまた雪迎う 橋 本 信 水 ▲戻る
 

 トンネルを抜けると雪国だったを想起するが、 雪国の暮らしは厳しい筈。 作者の 「里にまた雪迎う」 生活観は、 その風土での営みぶりの興趣で苛烈さを忘れさせ、 流れから感じ取った点綴佳。

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