文芸塔

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優秀冠句






秀  句  鑑  賞

 先師が、大砂辰一句集の作風に触れて「極めて精密に計算された、デッサンの確かさに発想した作品ばかりで、そのボキャブラリィの豊かさの奥に、ロダン的なマチス的なかっちりした、把握を掴めこれは作句の上で学ぶことがらであろう」と述べられた。以前にそのことは書き右の文は、一部省略して綴り直している。

ソーダ水 植物へ海が歩いてくる  辰 一(昭和26年作)

 この作の叙法は、モンタージュ手法で成っている。そこに「作品の魔術の鍵はこの原型を掴むことで悉く解かれる」と、先師は言及していて、冠句界全般のレベルが高まっていると言われた。この句の評釈は省くが俳諧の圧縮詩型に因る、主要な作句方法として、連句に於ける"映り・匂い・俤・衝撃"法と共に、句境の"飛躍・展開・帰結"する"広がりのある付合いの妙"の美を、追究する作句の楽しみも行うことが、現代冠句では大切である。
  冠句は、貞徳門流の復興の句立てとして、行われたのであり所謂"談林俳諧"とは、劃した句境つまり平句で無い「誠の俳諧」の道に立つものであって、単に付句のみの面白味に籠もるものではない。連句芸術の新しさはモンタージュ表現法により生じる。その「判り易く奥深い」印象描写の抒情を創る愉しみをしよう。

詩と小鳥 丘は少女の春にして  久佐太郎(昭和26年作)

 福知山の疎開住まいから、京銀閣寺畔に転居後の生活環境変化にも、連作ポエム創作心を映じた句位正しく明るい二重写(オーバーラップ)の句。

夜の瀬音 夢の中さえ逢えぬ母 野 口 正 子 ▲戻る
 

 還らぬものへ身と心を滾らせ憶い噛む哀恨がある。人の情として「母」や肉親を憶い起こした作は多く、格別な心境でなく情景美も類型に、流れていると言えるが「夢の中さえ」に、眼覚めて一層深まる情懐に幼い哀別感が窺え、極まる瀬音の風情が高い。

ひそと昼 洗い重ねし白き皿 樋 口 八重子 ▲戻る
 

 平生の日常茶飯事の一点綴なのだが、その余り特段で無い生活挙措に、作者の発想契機が「白き皿」を「洗い重ね」た、構成的な興味関心を覚える働きで、用了えた物に発見した閑寂が利く。

夜の瀬音 天職を辞す森深く 前 田 八 州 ▲戻る
 

 対して神聖な「職を辞す」重い思索の深まり句で、作者の純一な職掌観が「天」空と「森」林の広遠さを体感し、自然世界の厳しさと美に、生涯支えられ捧げた気迫の思いが情潔く語れた。

ひそと昼 胸に梅雨茸繁殖す 三 村 昌 也 ▲戻る
 

 自然との係わりでの物淋しさを「繁殖す」と、抽象した詠みぶりで言い、その生活臭を「胸に梅雨茸」で暗示して、市井感情の陰微な虚しさを茸に仮想している。情懐類型あるが悦得力ある。

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