文芸塔

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優秀冠句






秀  句  鑑  賞

 冠句は"真珠質で結晶"して成る詩句で、 これが 「俳諧のエッセンシャル」 と、 明晰した龍之介の至言に通じ、 先師が 「冠句の特性は詩」 として、 正風冠句の名でジャーナリズムの世評に至る、 作品発表と歴史研究に傾心した事蹟は、 今改めて言う迄もない。 冠句詩型は二句映発の妙味を愉しむ、 詩心のあそびで言葉の上の遊びとは別だ。 遊は"道を旗の下ゆっくり行く"意で、 それが心なぐさむ楽しみとなった。 つまりは心すがたを表すといえよう。
  真珠質は清新で豊かな自然と、 時の流れの中で培われそして、 鮮しい自らの働きで輝き放つ"真珠"を生成させる。 冠句の心も自らの詩嚢が感動して、 一句を創り出していくがその作用が、 真珠が結晶することと同じなのである。 作品の価値はその真珠質の輝きの美の貴重さで、 その鮮明で瑾のないすがたに尽き、 これは古今渝らない不易である。 冠句作品はその生成から核になる、 冠題へ照応する、 エッセンスすなわち抒情美を求めての、 短詩であり、 詩はいつも新しい"こころとすがた"の、 純粋さあるところでこそ、 つくり出され生きつづけると言っていい。 従って、 冠句性とは、 所謂課題吟だけを謂うのでなく、 連句の圧縮体としての発句に因る、 発五でもある自由吟冠句も併せもつものと言える。
  二句照応、 衝撃の詩型が放つ輝きをつくる作品を書こう。 そして句は短冊や色紙に認めたりする。 その姿勢で出句を記そう。

岸光る ペンを措く日の近からむ 樋 口 八重子 ▲戻る
 

 文章を認めることへの心境だが、 何か老成した感懐の 「ペンを措く日の」 境涯観を、 文学文芸にひたすら情熱した、 勁い志向からの歎で 「近からむ」 と吐露している。 そこに国語に思いかられ続けて来た作句人生の、 拠り所の流離の感に到った姿勢が透く。

優しい背 馬の気品の過ぎゆけり 浅 田 邦 生 ▲戻る
 

 これは躍動感と柔軟な表現の中に、 作者の精神性や審美観が出た 「馬の気品の」 良さを見つけた欣びだ。 こうした言わば芸のすがたは、 生来の血統性だけでなく鍛えられた整えから生じる。 その気質をふと感歎した言いぶりも、 作者の素養から出るものだ。

岸光る オホーツクの雲あとさきに 赤 島 よし枝 ▲戻る
 

 眺望宏大な景観で 「オホーツクの雲」 と、 感動も伸び伸びと打出し、 気候風土のエキゾチックな様を 「あとさき」 と、 捉えて国境遥かな感じを余情している。 極北の地の遠い見晴らしがいい。

優しい背 他郷で老ゆるも気負いなし 滝 沢 茂 樹 ▲戻る
 

 生まれ育った地を離れて暮らすに至った事情は言わず、 唯 「他郷で老ゆるも」 の生活相を、 何か暖かい微笑で語っている処は、 作者のおおらかさだろう。 それが 「気負いなし」 に滲んでいる。

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