文芸塔

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優秀冠句






秀  句  鑑  賞

 先師が大砂辰一句集(第一句集"唖の笛")の、作風に触れて述べられた筆致の一節を、前号のこの欄で書いたがそれは五十五年前の『文芸塔』第二十九巻三月号所載、先師の「吾楽荘机語」よりの引用である。辰一句集は一九四九年(昭和二十四)作の
   朝 の 風 赤きカンナの花毟る   を頭書にした定型正準な抒情性濃い作品で始まり、後彼の語彙煥発する句と趣き異なるが、印象リアルに述べた描写の結句"花毟る"の描写力と
   灯の吐息 濁れる街は酸性に   顕れが窺える。先師はその同じ年『冠句ロマン』を積極的に、試作発表されており「妖花詩」で、詩聖ヴェルレーヌ生誕百年に因むを、そして

夢の部屋
   しづかにしろ
   人が生れるのだ
夢の部屋
   しづかにしろ
   人が死んでゆくのだ

の「■(ロウ)涙」の名吟を遺され、また居は銀閣寺附近にあった。そうした先師の冠句志向と創作精神を、辰一氏が後年『海港』誌を発刊し、『故師太田久佐太郎先生の悲願、伝統短詩俳諧連句の圧縮体「冠句」文芸形態をもって、人の世に生きた日の証しを表現しよう』と、実践し全国紙の紙面での紹介もあり反響得たことが今日彼も没して十八年の、遠い彼方にあることに私は思い至る。

影動く 一つずつ撞く除夜の鐘 奥 山 呼 潮 ▲戻る
 

 大晦日全国で行われる風習、従って言を差し挟むことも無い。百八煩悩を消す鐘を一人「一つずつ撞く」情景が、U音で納めてありその単純な敷衍さに、除夜の心身引締まる感をよく描出している。敢えて附言すると単純化は作者の芸で望見の感動である。

ちらと雪 美術館出て火照りあり 三 村 昌 也 ▲戻る
 

 京都で1月26日少し積雪を見た。加えて御所秘蔵展が開催中である。そのことに因る鑑賞観とは別に「出て火照り」の、深鑑した余炎の感応が、比喩の張りに映り出て一瞬精神を輝かせた句。

影動く 獣医受胎を確信す 橋 本 信 水 ▲戻る
 

 この「受胎」は人為交配を行った「確信」だろう。今日では牛馬の他犬や猫も、いわば人工芸術性である。この句「影動く」はその血統の純一な描写と謂えないが、獣医の目の働きが分かる。

ちらと雪 この町に居を定めんと 浅 田 邦 生 ▲戻る
 

 転宅の境涯観が「この町に居を」明示して、切実身に迫る複雑微妙な生活哀歓を、心据えるように「定めんと」見凝めた独白だ。際立った表現は無いが人の置かれた場景への、自讃自答だ。

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