文芸塔

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優秀冠句






秀  句  鑑  賞

 平成も成人二十歳の年が去って行く、かの昭和は二十年で大戦が終わって翌年から"戦後"が始まった。暗く乏しい復旧へ耐え忍ぶ時代の幕開けだった。それに符号するような平成二十一年も同様の社会世情だ。暦の星は九紫で二〇〇九年と重なる。よろこばしい年に少しでも早く戻ることを願いつつ、作品鑑賞に入りたい。処で冠句文芸は初五の冠題を活かす、つまり作者の新しい息吹を入れて、錚々とした作品や詩曲にする。その息吹をする素材を管楽器に見立てると、クラリネットのリード(吹き奏らす弁)と言える。作者のうたのいぶきで自在な心の音色が生じる。そのことへ熱中する一心が、楽しく大きい歓びの芸術性だといえる。

愉しい地 馬上はすこうし明け急ぎ 鞍 谷 弥 生 ▲戻る
 

 発想力に宏放な感があり"愉楽"の境地を描いており出色だ。「馬上」での視界や見受ける景は、人の歩く目線と広さを超え、人生観さえ違うかに覚える。沃野の向うに「すこうし」と感受した朝明けの炎かぎろいに、騎馬民の血を嗣ぐ気分の昂揚も伝わりいい。

闇深む 落葉松の道遠ければ 浅 田 邦 生 ▲戻る
 

 白秋の詩との似通いを感じるが、この「道遠ければ」の接助詞に作者の悲愁の感歎が強調され、凄蒼な思いでの主眼で「闇深む」向うを見凝めた、濃やかで重い詩境で「落葉松」を詠み語った。

愉しい地 白梟を神と決め 川 口 未 知 ▲戻る
 

 あたりは静寂な森林が広がるその領域に、神の化身として「白梟を」見做しいて、特異な目と賢げな姿が浮かぶ。西欧も梟は哲学者にアイヌはカムイと語る。そのふしぎさを内省し点晴した。

闇深む 未決のままに閉ずファイル 上 田 國 寛 ▲戻る
 

 解釈が分かれる処がある「未決の」である。主に裁判語だが作者が暗示するイメージに、理で断じ難い資料「ファイル」の詩因が窺え、社会性の複雑な背景を見凝めた「闇深む」感嘆を思う。

闇深む 母系をおもう病みてより 夏 原 美津江 ▲戻る
 

 女の生理の必然に想い寄せた情懐で、生命出産の深い哀歓をナイーブに詠嘆している。臍帯血は母胎からで「母系をおもう」は摂理の自然。まして「病みてより」の切実感に、心臓の鼓動の確かさと、脳裡にイメージする愛情や憐憫の心がしみじみ出ている。

愉しい地 自由はバラの香りして 加 藤 直 子 ▲戻る
 

 理想郷の在り方を想像していて、無性な愉しさが「バラの香りして」と、リリックな調べとともに、彩り華やかに語っている。本当はそんなに「自由」は甘くないが、快的な感受性で納得。

闇深む 海の重みに人老いし 中 村 秀 男 ▲戻る
 

 これは恰も悠遠な自然の海と対して生活する、ヘミングウェイの「老人と海」の映像を写している。渺々と広く深い海原の実情と影が、一つになった。老人の前に在る忘れがたい孤愁を思う。

愉しい地 十坪なれど我が家建つ 野 村 民 子 ▲戻る
 

 この光景の「十坪なれど」の新築の達成感は、表現上の広さは別に、はっきりクローズアップした、この上ない正しさでいい。

愉しい地 バス渋滞す冬夕焼 谷 口 春 子 ▲戻る
 

 連休の好天気に遊覧バスが幹線路で「渋滞す」る光景。その説明に過ぎるようだが、近景から遠い空に目を転じ見たとき、短いが一瞬「冬夕焼」の美に萬象の、清浄を感じ神秘に描き分けた。

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