文芸塔

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優秀冠句






秀  句  鑑  賞

 今秋は九月尽に"時雨の季"の寒い霖雨が降り、アルプス立山に初冠雪を見、早い冬の訪れの異常さに襲われた。反面台風シーズンに今年は珍しく本州に上陸が無く、その風水害も沿岸に限られて、米は概ね豊作となった。処が米国の金融破綻で株価の暴落が起き、欧州諸国はもとより我が国も波及急落、かつて銀行崩壊した景況不安を案じさせた。尤も一般は報道として受け止めるしかなく、日暮れの早さを急に覚えて金秋も薄らぐような感じだ。そうした中、十三夜の月が未だ日没前に昇り西空は夕映え、東山に薄月が昨年より二週早く眺められ、ふと浪漫な餞に思えた。

灯が溢れ この町に吾が寄る辺なし 松 浦 外 郎 ▲戻る
 

 賑やかな町の景況には、さまざまな生活の貌と跫音、気脈や人情の違いもある。「灯が溢れ」た「この町に」蕭条とした思いを起こし、寄る辺無しと感じた嘆きは、人寰(かん)の中を吹き渡る秋風に定め難い、人の身の淋しさを見出したのだ。無造作のようで非凡。

灯が溢れ 銀杏整列して孤愁 赤 島 よし枝 ▲戻る
 

 同じく町通りを描き乍ら人道に並び立つ「銀杏」に、何か侘びしげな樹の姿と風の音を聴いたのだ。塵埃多い大通りに人為的に「整列」され植えられた樹観を、ふと心締めつけるかに見た景。

道急ぐ 人みな黙す雲錆びて 野 口 正 子 ▲戻る
 

 大都会の人波を捉えて「人みな黙す」感懐は、往き「急ぐ」行動に一沫の寂寞とした、無関心さへの悲嘆でそれを「雲錆」と謂う、吹き流れる萬象の中での貧寒とした、生活臭で語っていい。

道急ぐ 同行二人とはならず 住 澤 和 美 ▲戻る
 

 「同行二人」は弘法大師と巡る、四国遍路の謂れを引用した語。従って似た句があったかと思うが作者の心境は、合うべき俤が身に添わない焦燥の寂しい実情を、繊細な神経の働きで吐露した。

灯が溢れ 揺るぎなく立つ真柱 藤 原 萬 郷 ▲戻る
 

 祭祀を行う象徴の「真柱」であろう。神域の御柱を思うが「揺るぎなく」の場景に、壮厳で雄渾な見えぬ天地自然の力の不思議が窺われ、そして又新築時の無垢な木の呼吸(いき)づきも感じさせる。

道急ぐ 語るは熱き人形師 東 城 達 彦 ▲戻る
 

 句材が頭や手足そして麗美な衣裳と、別々の部分が精緻な「人形師」の技で、見事に作される何か懐かしく愛しい人形。その微妙な表情や雰囲気を「語る」秘密の、愛情が伝わってくる句だ。

灯が溢れ 敬老の日がもう終わる 鞍 谷 弥 生 ▲戻る
 

 百歳以上が珍しくなくなった現代「敬老の日」も、洵に様変わりして来ている。長寿も"前期と後期"とに分けられる社会で「もう終わる」と感歎する作者の心境が、この場合複雑微妙な感懐を吐き出していて、素ッ気無い施政に焦燥する感が出ている。

灯が溢れ 高台にある癌病棟 西 村 たみ子 ▲戻る
 

 前句と対して「高台にある」ことへの見凝め処に、昂ぶりを抑え乍ら「癌病棟」の苦患に、健やかでありたいと我が身に念じ眺める姿をみる。技巧の無い景観描写の背後に自然な心情がある。

道急ぐ 生まれ来る日も逝く時も 笠 原 玲 子 ▲戻る
 

 句境は単純で説明いらないが、籠められた主情に作者のさりげない素質が語り出ていて、人の生死の哀歓を一点に纏めている。

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