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優秀冠句






秀  句  鑑  賞

 仲秋名月は日曜日で晴れ、少し欠け(月齢は14・3)てはいたが、良夜の清い雰囲気に浸れられた。暦の上の十五夜で実際の満月は翌日であったが、京都は曇空で見られなかった。各地ではどうであったろうか。ゲリラ豪雨での被災が多かった猛夏の後の月夜に、季節は「行き合い」するものとの実感を更めて強くした。
  それは、その名月の二、三日前のよく晴れた日の暑さが残る日没前、朱く燃ゆ西山と反対の東山の上に、月白の上弦月が昇っているのを、私宅から少し南寄りに眺めたからだ。暦の吉凶は先勝であった。処で名月の日は必ず佛滅になる。旧暦で巡り毎朔日配し直すから当然だが、季節のゆきあいに自然な姿があると感じる。

風に佇つ 旅終え襤褸さわさわと 川 口 未 知 ▲戻る
 

 今日の社会で「襤褸」の語彙は難しく、また平常用いないが元は漢語の俗言で"貧しくぼろのきもの"の意。昔は詩句によく用い"らんる"と詠んだ。現代の旅は快適で衣服も身軽くて、この句の「さわさわ」が、草木の戦ぎの感と呼応して成功した好例。

風に佇つ 手に持つ葬花揺れやまず 栃 尾 恵 羊 ▲戻る
 

 同じ草花でも「手に持つ葬花」の悼みの献花は、華麗とか濃密さからは遠い。密かで淡い花姿の感で哀憐の情が籠もり、それが「揺れやまず」と見止めた措辞が葬祭の心情を細やかに伝えた。

青果実 約束かたく信じおり 樋 口 八重子 ▲戻る
 

 果肉の未だ堅い触れると、即物性の抵抗が伝わるがそこに「約束かたく」と、予見される成熟に結びつけた、対象の「青果実」の平純味に籠めた強い期待感への、作者の願望が明確でいい。

青果実 いま眠りより覚む氷河 三 村 昌 也 ▲戻る
 

 発想・展開・叙法が特異で、モンタージュ手法の暗喩に豊んだ作。この「覚む氷河」は融雪現象でその数千年の、生の営みで積もった氷雪の変貌に、作者の嘆きが萬相の情と共に詠じてある。

風に佇つ 父祖歩みくる予感あり 浅 田 邦 生 ▲戻る
 

 能の"姿・形"の上での動きと、人生の慈悲や運命に繋がる境涯を思わせる。生来の良さにも必ずしも平坦で無かった「父祖」の時代と、作者の身も老成に向かう心境が、露けくも出て佳吟。

風に佇つ 一本の葦折れもせじ 酒 井 孝 子 ▲戻る
 

 これ迄にも詠まれているとも思うが、この「一本の葦」と呼応する"考える葦"の、人間的運命とに籠められた印象が、作者の心象景である「折れもせじ」の観照で、純心な思索の"湖のふるさと"が、まぎれもない現実で、判りよい語で描写されている。

青果実 浅黒き娘らシャワー跳ね 鈴 木 康 子 ▲戻る
 

 厳しかった晩夏に「浅黒き娘ら」の、張りもすべらかな肌に大らかに「シャワー」を浴びている、健康美の讃歎である。格別な場面でないが、粗々しさと瑞々しさの対照に眩しい歓びがある。

風に佇つ 我を支える杖一本 石 田 貴 美 ▲戻る
 

 病患障害を持つ者が頼る「杖一本」への実情に、深刻な心の哭きが「我を支える」に裏打ちされた、言葉の強い切身に首肯く。

風に佇つ 立冬の海瞳にさやか 中 村 秀 男 ▲戻る
 

 今は未だ秋分"法師蝉"を聴く、従って「立冬の海」は程遠い季。作者の意趣は「瞳にさやか」だが海港が荒れぬを期待する。

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