文芸塔トップへ
文芸塔社とは?ページへ 行事予定ページへ 優秀冠句ページへ 投句ページへ イベント報告ページへ 冠句のお誘いページへ バックナンバーページへ 問合せ先ページへ

TOP > バックナンバー > 2008年7月


優秀冠句


バックナンバー
2008年7月






秀  句  鑑  賞

 本誌七月号の企画編集会は五月七日、 よく晴れた日だったが翌週十二日 「四川省大地震」 が発生、 その規模甚だしい痛ましさに心重く、 文筆が滞り勝ちなままの数日後、 夕陽が京西山に赫く映え、 東山には上弦の月がある、 曠然玄虚の象徴に私は黙爾した。

山に向き 望郷の念滂沱たり 住 澤 和 美 ▲戻る
 

 山は峻険な中国山景の象形で、 日本の山容穏やかさとは異なるが 「望郷の念」 への感懐は渝らない。 作者の語彙語感は常は独特な強靭さの比喩を見るが、 この 「滂沱たり」 と浪漫性普遍な感動で詠んだ情感が、 確かで揺るぎない素直さがあり潤い溢れていい。

薫る中 あらわに肌を陽に預け 夏 原 弘 志 ▲戻る
 

 情景描写は健康への念いと意欲で、 比喩にも技巧が走らず我が身の裸形を 「あらわに」 と、 形容動詞の典型のままに書き綴り、 敢えて他のかくれた残骸などは比喩の裏にして、 見るからに逞しい精神豊かな憧憬を、 直截無造作に 「預け」 と詠み収め効いた。

薫る中 いま花束を確と抱く 野 口 正 子 ▲戻る
 

 一読"母の日"の歓びを感じ受けるが、 日常片言の言いぶりに手離しの感情と、 少し照れを抑えた細やかな愛情への感謝が、 あくまでも事に即して 「いま」 「確と」 と対手も描き立てている。

山に向き 母の声する朴の花 中 川 定 子 ▲戻る
 

 我が国特産の喬木花で山地に生じる 「朴の花」。 初夏に大輪の弁に雌雄の蘂が重なり芳香する。 作者が 「母の声」 と思うさまに散華する姿への哀歓が籠もって、 わけても家族の情愛がよく出た。

薫る中 詩人の墓の現れり 浅 田 邦 生 ▲戻る
 

 薫風叢中に小さき 「詩人の墓」 が視えて来た、 慟哭の想いが語られ 「現れり」 と、 強い響きの言辞としたのだろう。 現実描写の衝迫光景で無くとも、 まざまざと浮き出した心象印象と言えよう。

山に向き 仄あかりしてふくろうも 鞍 谷 弥 生 ▲戻る
 

 山麓の森に棲む"哲学者"の異名もある梟は、 冬の季に入る鳥だが 「仄あかりして」 と、 寂しさにも少し童心を喚起させる詠みぶりが、 年中居る親しさに受けとめてあり、 微笑を誘ってくる。

薫る中 惜しまれて退く青き裸馬 夏 原 美津江 ▲戻る
 

 優駿競走馬の引退を 「退く青き」 と表現した、 作者の発想と感偶の呟きの内に、 明るい愛惜感と色濃い哀歓がさりげなく出た。

山に向き 夫婦で眠る比翼塚 北 川 久 旺 ▲戻る
 

 美しい印象景で作者の願望の感銘が詠まれている。 近来は家より夫婦や本人の個性で祀る形が多い。 中七の感懐が素直である。

薫る中 置き薬屋のひょっこりと 近 藤 恭 代 ▲戻る
 

 日常生活の即興感偶の点描だが、 この 「ひょっこりと」 の口語の意表に、 昨今では珍しい 「置き薬屋」 の人間性が描けた。

HOMEへ戻るボタン



Copyright:c2005-2008 bungeito-sya All rights reserved.