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優秀冠句


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2008年5月







秀  句  鑑  賞

 春はいろどりの楽しみだ。その彩りの美を謂うのに「桃源郷」があるが、私はピンク色に染まる前の"あせびの花の白い"小鈴の鳴るような揺れを好む。万葉の頃からのわが国特産の植物で、葉に毒があり"馬酔木"の字を当ててい、奈良公園周辺の樹花を鹿から守るため、多く植え続けられてきたと言われている。暦の上でも冬の季にその芽の気配を、薄日射す吹く風に感じさせ春めくものの匂いを伝える。花は少し侘ぶ風情で香りも微かで、何処となく切なげに思うのは、万葉の大津皇子の非業の死に大来皇女が、二上山に葬られた皇子を悼んで詠んだ歌のしらべが、この花の持つ大和ことばのひびきを湛えているからであろう。「手折ってもいじらし小花」で、魁けを知らせたい気にもさせられいい。

 京都・円山公園に建つ「久佐太郎冠句碑」の元に、この"あせび"が植えてある。近年訪れていないが今胸に香り漂って来る。

春の句碑 笑む百千の馬酔木の眼  辰 一

ツツジ科のこの花は欧州にも移植され、イギリスでは"アンドロメダ"と呼ばれ、好ましい花木と見られていると聞く。話が逸れるが最近"アメリカ・ハナミズキ"が、花水木とよばれて、日本の花木のように美しい花として愛されているのに相通う。因みに馬酔木も現代は淡朱い花も成り、花水木にも朱花があって彩り美しい眺めを演じている。日本のミズキは山野で高木に冠し咲く。

一詩人 倒れし一樹篝火に 川 口 未 知 ▲戻る
 

 一読能の演目を思わせてまた「歳々花相似たり」を、逆説に謂った詠みぶりで、心理的・色彩的にも芸域の幽かな思いと、心付いた「篝火」の向こうの闇の深さへの驚きを打出している。樹齢を終えた「一樹」が「倒れし」ことに、意識の上だけではない詩境へ、強く惹かれた感慨が「篝火」に現じ出されていて印象濃い。

咲き初む 再びは無きこの朝に 松 浦 外 郎 ▲戻る
 

 部屋からの眺めか又街路や公園での景観を歎じてかは別に、まさしく瑞々しい空気の中、高爽清浄な花を目にしての心懐を言い捉えている。樹肌も艶かなのだろう「再びは無きこの」に、生の愛しい重さまで「朝に」表出され、作者の境涯観も光景の裡に語られている。言い尽くし得て描き余した処はざらでは無い境だ。

一詩人 永らえること望まずに 樋 口 八重子 ▲戻る
 

 純粋に冠句作りを志向し、人生の境涯を踏まえながらその境地を詠み続けようとすれば、長生は願ってもない悦びと云えるが、然し作家魂という面で胸に兆すものは、この「望まずに」が微妙な真だろう。感傷もなくないが「に」の格助一字で効いている。

咲き初む いま別れ来し人に文 中 川 定 子 ▲戻る
 

 まだ寒暖の気定まらない日に心に留めた、余韻の明るさを率直に物語っていい。その「いま別れ来し」の情に踏み入っては味気ない。結びの「人に文」にある行間から心情を見てとれば足る。

咲き初む 髪型かえて夫に添う 赤 島 よし枝 ▲戻る
 

 眼の輝きによって女性の内性まで見えるさまを表白した句で、前句と対照していかにも心弾む、或る無邪気でいてしみじみした情感を描いた。少し他愛ないようだが伴侶像の良き面が窺える。

一詩人 瀕死の蝶を海へ放つ 住 澤 和 美 ▲戻る
 

 蝶も海洋を翔び渡って繁殖地へ向かう。その有名な詩を憶い踏まえていようか。この「瀕死の蝶」は冬を越す種の感覚心象で、作者の言語世界から生まれ出た、美しくも小さな命への歓歎だ。

咲き初む 折り返す道微光せり 加 納 金 子 ▲戻る
 

 作者の生活風景での清楚な花木から得た、人通り離れてからの淡い感情の秀(ほ)を、即興的に「微光」と捉えている。前出の「鐘太鼓」の賑やかさの表裏のもので、人生折り返しの気分もあろう。

一詩人 川の流れも歌になる 加 藤 直 子 ▲戻る
 

 市井の喧騒が聞こえていても、澄んだ心になり「歌になる」清純さを、女性自身の特性としているその口吻(ふん)が、洩らされ、いい。

咲き初む 男にもある物思い 北 川 久 旺 ▲戻る
 

 この「男にも」の大?みな打出しに、情感の敷衍が効いている。

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